EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第9話

想定外と想像内の狭間で(3)

文と絵 後藤忠徳

平成7年(1995年)1月17日午前 5時46分。神戸を大地震が襲いました(図1)。マグニチュードは7.3、最大震度は7。死者・行方不明者はあわせて6,437名、全壊・半壊した住居は約25万棟。そう、阪神・淡路大震災です。日本はそれまでも多くの地震災害に見舞われてきましたが、21世紀を迎えようとする大都市の直下で起きた大地震は、日本中はもとより世界中を震撼させました。

図1. 神戸市ホームページ「阪神・淡路大震災の記録:震災記録写真集」より(http://www.city.kobe.lg.jp/safety/hanshinawaji/data/photo/index.html)。左:神戸市灘区六甲町、右:同兵庫区水木通。神戸の大学に通っていた私にとって、震災前の六甲町も水木通も思い出深い場所。

この地震をキッカケに、日本は世界にも類を見ない高密度の地震観測網と地殻変動観測網の整備に着手します。前者は独立行政法人防災科学技術研究所が運用する高感度地震観測網「Hi-net」、後者は国土交通省国土地理院が運用するGPS連続観測システム「GEONET」です。
Hi-netでは地中に掘った井戸の中に設置した高精度地震計を用いて地面の微弱な揺れを検出し、GEONETではカーナビでお馴染みのGPSのアンテナを大地に固定して、地殻変動の検出を可能としました。
このような観測網が2011年の東日本大震災の前に完成していたにもかかわらず、東北地方でマグニチュード9の超巨大地震が起きることに対しては国も専門家もノーマークでした。ハイテク機器を投入していたのにナゼ? 今回のテーマは「新しい発見」です。

◎観測網は巨大地震の尻尾を捉えていた!?

日本の地震・地殻変動観測網の規模は、気象観測網の規模とほぼ同じであることは案外知られていないようです。地震観測網のHi-netは日本全国に約800か所、地殻変動観測網のGEONETは約1,200か所に観測点が配置されています。観測点の間隔は概ね20~30kmです。
一方、気象庁の地域気象観測システム「アメダス」の観測点は約800~1,300か所にあり(注1)、Hi-netやGEONETと同じ規模です。「アメダス」のほうが圧倒的に有名なのは、やはり天気予報のおかげでしょう。

図2. 防災科学技術研究所高感度地震観測網のホームページ(左、http://www.hinet.bosai.go.jp/)、および国土地理院基準点・測地観測データのホームページ(右、http://www.gsi.go.jp/kizyunten.html)。Hi-netやGEONETなどで観測されるデータを見ることができる。
Hi-netとGEONETの観測データは、インターネットなどを通じて広く公開されており(図2)、国内外の研究者によりさまざまな科学的発見がなされています。
例えば、「低周波微動」や「ゆっくりすべり」などは、その代表例です(これらについてはまた近いうちに解説します)。これに度肝を抜かれたアメリカの研究者たちは、同様の地震・地殻変動観測網を北米大陸に構築中です(2014年現在)。プロジェクトの名は「EarthScope」。「地球内部を覗き見る望遠鏡」とは、なんとも洒落たプロジェクト名ですが、アメリカが日本のマネしているのです。日本のHi-netとGEONETがいかに優れているか、その科学的成果がいかにすばらしいかがお分かり頂けるかと思います。
さて、このGEONETによる地殻変動観測は、2011年の東北地方太平洋沖地震の尻尾を捉えていました。海底の下のプレート境界の様子を陸上のGPS観測で監視していたのです。

図3. 陸上の地殻変動観測から、海底のプレート境界のくっつき具合(固着度)を調べる方法。プレート境界を境にして海陸のプレートがくっついている場合、海洋プレートの沈み込みに伴って、日本列島も押される。この陸地の押され具合を測定して、プレート境界のくっつきの具合を調べる。詳細は本連載第2話を参照のこと。

前回も紹介したように、東北地方の下には太平洋プレート(海洋プレート)が沈み込んでいます(図3)。日本列島側のプレートと海洋プレートがプレート境界でお互いにくっついている場合(これを“固着”といいます)、海洋プレートが西の方へと沈み込めば、それにつられて日本列島全体も西の方向へ押されます(図3下)。他方、プレート境界が固着していなければ、海洋プレートはスルスルと日本列島の下に沈み込むので、日本列島は西方へ移動しません。
このように、プレート境界の固着の程度によって、陸地の動き(地殻変動)には違いが生まれます。ということは、GEONETによる地殻変動観測から、プレートの固着度を推測することができるという仕組みです。

◎発見から5年後に予想は現実に

解析の結果、宮城県~福島県の沖合ではプレート境界が固着していることが分かりました(図4、下図)。図中の赤色の地域では、プレート境界が年間10cmの速度で西へ移動しています。これは太平洋プレートが日本列島の下に沈み込む速度に概ね等しいので、図3下のようにプレート境界は固着していると考えられます。もしもプレート境界が長い期間にわたって固着していれば、その部分では沈み込む海洋プレートが日本列島側のプレートを押し続けるので、岩盤に歪みが溜まることが予想されます。

図4. 陸上のGPS観測(GEONET)から予測した、プレート境界のくっつき具合(固着度)。プレート境界自体は図3のように東から西へと傾斜しているが、これを上から見ている。赤色の地域ほど固着している。図中の数字はプレート境界の移動速度(cm/年)。2cm/年ごとに線が引かれている。諏訪ほか(地震第2輯, 2004)およびSuwaほか(J. Geophys. Res., 2006)より。

図5. 東北地方太平洋沖地震の余震の分布(2011年3月11日~4月8日)。点線の楕円は、3月11日の本震の際の震源域(海底断層のおよその大きさ)。東京大学地震研究所ホームページより引用(http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/eqvolc/201103_tohoku/)。本連載第2話でも紹介。
これは驚くべき結果でした。というのも前回ご紹介したとおり、これまでの研究では「東北地方ではプレート沈み込みのときに蓄えられる歪みエネルギーのうち、3割は地震になり、7割はどこかに消えてしまう」と考えられていたからです。どこに消えるのか? 
地震学者たちは、過去の学説に照らし合わせて「東北地方では、プレート境界があまりくっついておらず、プレートが沈み込んでいても歪みがたまりにくいのではないか?」と漠然と考えていたのです。特に福島県~茨城県沖に関しては、過去100年間の地震観測の記録から、マグニチュード7以上の地震は非常に少なく、それより小さな地震がたくさん起きていることが知られていました。
また、2008年7月19日に起きた福島県沖の地震(マグニチュード6.9)では、地震に伴う地殻変動よりも、地震発生後の地殻変動のほうが大きいことが、GEONETによる地殻変動観測から明らかになりました(注2)。これは「余効変動」と呼ばれていて、地震を伴わないゆっくりとした地殻変動です。
以上から、東北地方、特に福島県~茨城県沖に関しては、プレート境界は固着していないと言われていたのですが、図4の結果はこれと正反対で、むしろプレート境界は固着しているという予想だったのです(注3)
図4の結果が国際的な学術誌に発表されたのは2006年のこと。それからわずか5年後、予想は現実になります。
プレート境界がくっついていると思われた地域(図4の赤い部分)は、2011年の東北地方太平洋沖地震のときに海底断層が一気にずれ動いた地域(図5の点線で囲まれた部分、上図)と見事に一致したのです。おそらくは、プレート境界の固着によって蓄積されていた歪みが2011年3月11日に一気に解放されて、マグニチュード9の超巨大地震が起きたのだと考えられています。
宮城県~福島県の沖合でプレート境界が広範囲に渡ってくっついていたこと、これは阪神・淡路大震災以降に整備された地震・地殻変動観測網によって得られた新データがもたらした大発見でした。
しかし、明確な科学的結果が出ているにもかかわらず、地震学者たちは東北沖の巨大地震について警鐘を鳴らしませんでした。いったいなぜか?
そこにはいくつかの「理由」があったのです。次回でこの「想定外と想像内の狭間で」シリーズをまとめます。


注1:アメダスとはAMeDAS=Automated Meteorological Data Acquisition Systemを省略したものであり、日本語では「地域気象観測システム」と呼ばれています。降水量を観測する観測所は全国に約1,300か所あり、降水量・風向・風速、気温、日照時間を観測する観測所は約840か所あります。

注2:詳細は以下の資料をご覧ください。 西村卓也, 第189回地震予知連絡会についての報告, 日本地震学会ニュースレター, Vol.23, 2011. http://www.zisin.jp/modules/pico/index.php?content_id=2218 なお、この小文が受理されたのは2011年3月7日、東北地方太平洋沖地震の4日前でした。

注3:なお、宮城県沖ではマグニチュード7クラスの地震が約40年毎に起きることが知られており、そこではプレート境界が固着していると以前から考えられていました。しかし固着は宮城県沖の一部の地域に限定されていると考えられていて、より広い地域でプレート境界が固着しているとはあまり考えられてはいませんでした。

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)
第8話 想定外と想像内の狭間で(2)