EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第4話

地震計は命を救う

文と絵 後藤忠徳

2011年3月11日午後2時46分。私は東京都内にいました。午後3時から都内で開催される会議のために、地下鉄に乗っていたのです。あと数駅で目的地、会議にはギリギリ間に合うかな? と思った矢先、車内アナウンスが流れます。「急停車シマス、急停車シマス」。聞いたことのない機械音声です。電車は地下トンネル内で静かに停車しました。一体何があったのだろう? しかし私にはある予感がありました。もしかしたら……。
停車してすぐ、今度は車掌の肉声のアナウンスが流れました。「ただいま電車が急停車致しました。状況を確認いたしますので、しばらくお待ち下さい」。アナウンスの背後に「緊急地震速報デス、緊急地震速報デス」という車掌室内の音も聞こえました。
その直後、電車は大きな揺れに襲われました。地下鉄車両のサスペンション(バネ)のため、座席はユッサユッサと揺れていました。まるでトランポリンの上に座っているみたい。異様に長く続く揺れの中、「これは普通の地震ではない」と私は感じました。

◎頭の中に浮かんだこと

地震学者の多くは「どこで起きた地震か? どのくらいの大きさか?」などを地震の揺れの中で考える癖を身につけています。一種の職業病です。例えば、地面が「ビクッ」と振動してから、何秒か経ってから「ユサユサ!」と揺れることがあります。この経過秒数から地震の震源(地震が発生し始めた場所)まで遠いか近いかを考えたりします。
あるいは、最初の揺れが「ガツン」とくるのか「ユラリ」と始まるかに基づいて、震源までの距離を直感的に考えます。例えば100km以上離れた場所で起きた地震だと地面はゆっくり(ユラリ)と揺れることが多いようです。
しかし、電車の中で、ユッサユッサと揺すられていた私には詳しいことは分かりません。なんとなく静岡から九州近辺に至る「南海トラフ」と呼ばれる地域で巨大地震が発生したのではないか? と思っていました。
やがて揺れがおさまり、地下は元の静けさを取り戻しました。幸い脱線も停電もありませんでした。線路の安全が確認できた後で、地下鉄はようやく近くの駅まで動き始めました。まるで目をつぶって歩くかのごとく、ゆっくり、ゆっくりと。たどり着いたのは上野駅。すると携帯電話が繋がったのでしょう、乗客の誰かがこう言いました。「宮城で地震だって!」(図1)。

図1. 2011年3月11日午後3時半頃の上野駅。地下鉄を降りて地上へ出た際に撮影。解像度を低くしているが、多くの人が佇んでいる様子が分かる。信号待ちの行列ではなく、身の安全の確保のために駅前の広場に人が集まっていた。どの人も不安な面持ちだった。

いまも2011年の東北地方太平洋沖地震のときのことを思い出します。もし電車が停車せず、大きな揺れで脱線していたら? 脱線せずとも停電していたら? トンネルや駅で火災が起きていたら? 真っ暗な地下で私は無事だっただろうか?

◎緊急地震速報のしくみ

電車を自動停止させたのは「緊急地震速報」でした。これは気象庁が提供する早期の地震情報です。気象庁は日本全国に張り巡らせた地震観測ネットワーク(図2)を駆使して、地震の発生後のできる限り速いタイミングで警報を出すシステムを構築しています。

図2. 緊急地震速報に活用されている地震観測点(平成25年4月1日現在)。1000か所を超える地点に地震計が設置されている。気象庁ホームページ(緊急地震速報のしくみ)より。 http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/
shikumi/shikumi.html

緊急地震速報が発表されると、列車は自動的に停止します。またエレベータや工場・工事現場の機械なども自動的に停止するなど、さまざまな場所での安全の確保に役に立っています。
同時にテレビ、ラジオ、携帯電話へのメール、ショッピングセンター内の放送や、防災行政無線(役所からの連絡を町内のスピーカーなどでお知らせするシステム)、インターネットのホームページなどを通じて、警報やアナウンスが自動配信されます(あの独特な警報音を皆さんも聴いたことがあるでしょう)。最近では、室内のインターホンから緊急地震速報が配信されるマンションもあるそうです。
便利な緊急地震速報、そのしくみはどうなっているのでしょうか? 例として、沖合で地震が起きた場合を考えましょう(図3)。沿岸の地震観測点にはまずP波と呼ばれる弱い揺れ(ビクッ)が到達します。S波と呼ばれる大きな揺れ(ユサユサ!)が地面を伝わっていく速度はP波が伝わる速度よりも遅いので、「ビクッ」から「ユサユサ!」までは少し時間があります(初期微動継続時間と言います)。このあいだに地震の規模や震源をコンピュータが推測します。

図3. 海底の下で起きた地震から陸地へ向けて、弱い揺れ(P波)と強い揺れ(S波)が伝わる。地震観測点(家のマーク)には最初にP波が到達する。
図3のように地震観測点が1つだけの場合でも、P波の揺れ始めが「ガツン」なのか「ユラリ」なのかを精密に調べて、震源までの距離を調べるのです。この方法、実は本稿の冒頭で紹介しています。
地震学者は揺れ始めの「ガツン」「ユラリ」から震源までの距離を大雑把に推測していますが、緊急地震速報ではコンピュータを用いてより高速かつ精密に実施しているのです。さらにP波がどの方向からやってきたかも分かるので、方向と距離の2つから震源の位置をある程度推定できるのです。
「あれ、ちょっとまって? 地震の震源ってそんなに簡単に決められるんだっけ?」。いいところに気づきましたね。高校生の頃に習ったかもしれませんが、震源を求めるためには本来は地震観測点が3つ以上必要です。しかしいまは緊急事態。震源を精密に決定することは大事ですが、緊急地震速報では素早く決めることが求められますので、このような工夫が必要なのです。
地震の大きさも迅速に決めねばなりません。幸いP波の揺れが大きいほど、後に来るS波の揺れも大きくなる傾向があるので、P波から地震のマグニチュードを大雑把に推定できます(ただし本連載で前回紹介したように、大きな地震の場合は揺れ始めから揺れ終わりまで長い時間かかりますので、マグニチュード7以上の地震では緊急地震速報での予測値が実際の値より小さめになることが知られています)。
やがて数秒が経過して複数の地震観測点でP波が観測され始めると、今度はどの地震観測点が「揺れているか」「揺れていないか」を調べます。図2のように日本列島には1000を超える地震観測点がありますから、揺れが来たのか来ていないのかという単純な情報からも震源の大体の位置や深さを即座に決められます(注1)。

◎もし速報がなかったら……

では具体的な例で見てみましょう。図4は宮城県石巻市で観測された、東北地方太平洋沖地震の時の地面の揺れの様子です(本連載の前回の記事でも紹介しました)。石巻市では3月11日14時46分40秒頃にP波(ビクッ)が到来しています(図4の赤い点線。グラフ上でははっきりとは見えませんが、地面が微かに揺れ始めています)。

図4. 宮城県石巻市大瓜で記録された地震の記録。南北・東西・上下方向の揺れの速さを示している。▼は緊急地震速報が出された時刻。気象庁強震波形(2011年東北地方太平洋沖地震)を改変。 http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/jishin/110311
_tohokuchiho-taiheiyouoki/index.html

気象庁のコンピュータはP波の検出後、即座に地震の震源とマグニチュードなどを計算しました。その結果、P波検出の8.6秒後(図4の▼)に緊急地震速報を発表しています。石巻市にS波(ユサユサ!)が到来するのは、そのおよそ10秒後でした(図4の青い点線)。地面の揺れはさらに大きくなり、14時48分頃には秒速20センチ以上に達します。試しにご自宅の机を1秒毎に20センチずつ右へ左へと揺すってみてください。どれくらい激しい揺れかよく分かると思います(騒音にご注意を)。
緊急地震速報が発表されたのは、この激しい揺れに先立つことわずか数十秒ではありましたが、列車やエレベータなどを停止させるための貴重な時間となりました。また私達自身が「あ、いまから揺れる!」と身構える時間にもなりました。ただし、2011年3月の時点では緊急地震速報自体が本格的に運用されてからまだ3年半しか経っていないため、「何の警報?」と思っているうちに揺れを感じた方も多かったと思います。
2011年のあの日、地下鉄が大きく揺すられているとき、私の隣の女性が「怖い」とつぶやきました。それを聞いて私も初めて恐怖を感じました。救ってくれたのは緊急地震速報と、その基になっている地震計だったと私は思っています。ただし、緊急地震速報が無敵で万能というわけではありません。そのあたりはまた次回。


注1:緊急地震速報の技術的な詳細については下記などを参照のこと。
松村正三, 緊急地震速報の開発と効用, 科学技術動向, 2010年9月号,
p.22-34. http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt114j/
report2.pdf

緊急地震速報の概要や処理手法に関する技術的参考資料(気象庁地震
火山部, 2008年。http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/
katsuyou/reference.pdf

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?