EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第8話

想定外と想像内の狭間で(2)

文と絵 後藤忠徳

前回に引き続き、「なぜ想定外の大地震が起こったのか」という疑問に迫ってみましょう、今回はその2回目、テーマは「古い常識」です。
そもそも地震はなぜ起きるのでしょうか? どうやらそれは前回紹介したように「海底や大陸が地球の上を動く」ことが原因のようです。この海底や大陸の移動説は「プレートテクトニクス」と称されています。図1に模式図を示しました(ちなみに地球全体の輪切り断面図を本連載第1話で紹介していますので、あわせて御覧ください)。
「プレート」とは硬い板状の岩盤を意味しています。プレートの上部は「地殻」と呼ばれる比較的軽い岩石の層、中部〜下部は「マントル」の一番上の部分に相当します。

図1. プレートテクトニクスの概念図。海洋プレート(リソスフェア)は海嶺(海底火山)で生まれて、海溝から陸地の下に沈み込む。日本列島のように海洋プレートが沈み込むエリアは「沈み込み帯」と呼ばれている。ベレ出版『地底の科学』より。

◎エベレスト10個分の厚さ

ところで多くの人は、マントルは“地殻の下にある、溶けてドロドロになっている層”と思っているようです。そしてドロドロのマントルの上にある地殻がプレートそのものだと思っている人もいます。でもそれはちょっと違います。
まずマントルの大部分は硬い岩石からできています。「えっ? マントルって対流してるんじゃないの?」という声が聞こえてくるようです。そう、たしかにマントルは対流しています。風呂の水やお椀の中の味噌汁と同じように、マントルも下から上、上から下へとグルグルと流れるように回っています。しかしその流れの速度はものすごーく遅いので、マントルのほとんどは硬い岩石と言ってよいのです(詳しい説明はまた後日致しましょう)。
地殻の硬い部分とマントルの一番上の硬い部分は、一体となって動きます。この2つを合わせて「プレート」あるいは「リソスフェア(岩石圏)」と呼んでいます。このプレートの下のマントルの“一部分だけ”が溶けていて、「アセノスフェア」と呼ばれています。プレートはアセノスフェアの上を滑るように左右に動いていると考えられています。
さて、プレートには2つの種類あります。海底の下にあるのが「海洋プレート」、陸地の下にあるのが「大陸プレート」です。2つのプレートは厚さが異なっていて、海洋プレートで約80km、大陸プレートで約150kmです(これらの厚さは地域によって異なります)。エベレスト10個を縦に重ねたのと同じくらいの厚さの海洋プレートが日本列島の下に沈み込むときに、より分厚い大陸プレートとこすれあいます(図1)。この摩擦のために日本列島の陸地や海の下では地震がたくさん起きるのです。
プレートテクトニクスは大陸の形や海底の地形など、地球の上のさまざまな現象を無理なく説明できたので、多くの学者に受け入れられました。やがて「世界各地の地震の起き方の違いもプレートテクトニクスで説明できないだろうか?」というアイデアが生まれるのは学問の“自然な流れ”です。

◎日本人研究者発案のモデル

図2. プレートの様子と地震発生のモデル。世界各地のプレートの様子と地震発生を比較して、大別された。Uyeda and Kanamori (1979), Back-Arc Opening and the Mode of Subduction, J.Geophys.Res., 84, 1049-1061を改変。

プレートテクトニクス研究の第一人者である上田誠也氏と、地震学者の金森博雄氏(本連載第3話で紹介した“モーメントマグニチュード”の提唱者です)という二人の偉大な地球科学者は、さまざまな沈み込み帯を比較した結果、巨大地震の発生とプレートテクトニクスに“ある関係”を発見しました。1979年のことです。その中身をごく簡単に解説しましょう(図2)。
まず年齢の若い海洋プレートについて考えます。生まれたてでまだ温かい海洋プレートは比較的軽いために、大陸プレートの下に沈み込む際の傾斜角は浅めです。すると大陸プレートと海洋プレートでこすれあう部分が多くなるので(図2の赤い線)、摩擦が大きくなり巨大地震が起きやすくなります。一方、古い海洋プレートは(十分に冷え固まっているために)比較的重く、大陸プレートの下に急傾斜で沈み込みます。するとプレート間での摩擦は小さくなり巨大地震は起きにくくなります。
いまから30年以上も前に提案された巨大地震発生の仮説(上田・金森の地震発生モデルとここでは呼ぶことにしましょう)ですが、その後の観測事実がこのモデルをより正しいものへと昇華させます。
2004年のスマトラ地震、2010年のチリ中部地震は、上田・金森の地震発生モデルの“予言”のどおり、若い海洋プレートが沈み込んでいる場所で起きた超巨大地震です。1900年以降に起きた超巨大地震(図3:本連載第2話でも紹介)のほとんどは、いずれも1億歳よりも若い年齢の海洋プレートが沈み込んでいる地域で起きたのです(注1)。2011年に起きた唯一の例外、それが東北地方太平洋沖地震でした。

図3. 世界の超巨大地震の発生位置。http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20120622.html に基づく。
詳細は本連載第2話を参照のこと。

図4. 日本列島周辺にひしめき合うプレートの模式図。http://ascii.jp/elem/000/000/455/455932/index-3.html より。

2011年以前は、日本列島の地震発生の様子も上田・金森の地震発生モデルで説明が可能でした。例えば西南日本(東海・近畿・四国・九州地方)の沖合にある「南海トラフ」では、フィリピン海プレートという若い海洋プレートが沈み込んでいます(図4)。これはチリ型の沈み込み(図2左)に似ています。また東北日本の沖合にある「日本海溝」では、年老いた太平洋プレートが沈み込んでいたので、マリアナ型の沈み込み(図2右)に相当します(より正確に言えば、東北日本の沈み込みはチリ型とマリアナ型の中間に分類されます)。
すなわち、西南日本では超巨大地震が起きるリスクが高いけれども、東北日本ではマグニチュード8を大きく超える地震は起きないのだろうと考えられていました。

◎知られていた"謎のエネルギー"

当初は漠然としていた地震発生モデルは、その後の日本列島での地震や地殻変動の観測により裏付けられていきました。例えば日本では約100年間に渡って測量が実施されていましたので、長期間の地殻の変動を見積もることが可能でした。
その結果、西南日本の陸地はギュウギュウと押されて縮んでいましたが、東北日本ではそのような様子は見られませんでした(図5、下図)。 さらに地震観測の結果、西南日本の南海トラフでは地震活動が非常に低いことが分かりました(図6、下図)。まるで大きな地震へ向けてエネルギーを溜めこんでいるようです。
一方、東北日本沖の日本海溝沿いでは、マグニチュード8以下の地震が頻発していることが分かっていました。まるで中規模・小規模の地震のおかげで、巨大地震のエネルギーが溜まらない状況に見えます。

図5. 明治時代以来に行われた三角測量データから求められた、地殻の歪(面積歪)の様子。北海道東部、関東地方、東海地方、紀伊半島、四国南部に地殻が圧縮されている地域(青色)が認められる。北海道南部地域では地殻の伸長(赤色)が認められるが、この地域の測量誤差は大きい。石川・橋本, 地震第2輯, 52, 299-315 (1999)より。

図6. 2006年〜2010年のマグニチュード4以上の地震に関する発生位置(震央)の分布。松澤暢, 南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会資料(2012)より。 http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/yosoku/pdf/20130528yosoku_s06.pdf

科学とは長い時間をかけて仮説を検証し、知識を積み重ね、理論を構築していく学問です。地震発生についても同じです。地震学者たちは上記のように、自分自身の生きている時間よりも長期間のデータを積み重ねた結果、「岩手県・宮城県・福島県の沖合ではマグニチュード9の超巨大地震は起きない」という理論を自ら徐々に構築していたのです。
ただし説明できていない重大な事実もありました。日本海溝に沈み込む太平洋プレートが年間約8cmで移動していることは分かっていましたので、沈み込みの際に岩盤の歪として蓄えられる全エネルギーは計算可能です。そこで東北沖で発生した小規模・中規模の地震のエネルギーをすべて足しあわせてみましたが、予想される全エネルギー量の3割程度にしかなりません。つまり「30年程度の周期で中規模の地震が繰り返し起きていて、地殻の歪を解消している」というわけではないのです。残る7割はどこにいったのか? 地震にはならずにどこかに消えたのだろうか? 我々学者たちは、その食い違いの事実を知っていたものの、2011年の地震でその真実を知ることになるのです。
今回はここまで。次回に続きます。


注1:ちなみに海洋プレートの年齢は最も若いもので0歳、最も古いもので約2億歳です。東北地方に沈み込む太平洋プレートは約1億3000万歳です。地球の歴史は約46億年ですし、陸上では40億年以上前にできた岩石が見つかっていますから、2億歳よりももっと古い海底があってもよさそうなものですが、どうも見当たりません。おそらく図1に示したように、古い海洋プレートは海溝からマントルの奥深くへと沈み込んでいってしまったのでしょう。

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)