EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第7話

想定外と想像内の狭間で(1)

文と絵 後藤忠徳

私はいわゆる地震学者ではありません。地震がどのようにして起きるかを調べたり、地震データを扱ったりする研究者は王道たる地震学者ですが、私は電気を利用して地下を掘らずに探査する「地下探査テクノロジー」の専門家です。しかし、これまでにいくつもの活断層探査に参加したり、実際に自分で活断層探査をしたりと、地震に関係する地下探査を行なっていますから地震学者の端くれではあります。2011年3月、そんな私に学生時代の古い友人からメールが送られてきました。東北地方太平洋沖地震によって東日本大震災が起きてから数日後のことです。そこには次のような問いかけがありました。
「なぜ想定外の大地震が起こったのか」
「大地震を予測するのは困難だったのか」

◎科学の敗北か

当時、「想定外」という言葉がニュースのあちこちで聞かれました。マグニチュード9.0の地震発生に対しても、多くの地震学者が想定外だったと発言しています。
例えば地震から1か月後、「本当に想定外だったのでしょうか」という質問に対して東京大学地震研究所の教授は「そのとおりです。私自身、非常にショックを受けました。科学が敗北したようなものです」と答えています(注1)。東大教授のこの発言自体に、私も強いショックを受けました。あるいは日本地震学会が取りまとめた「地震学の今を問う」(東北地方太平洋沖地震対応臨時委員会、2012年5月)(注2)では、「想定」という言葉は196回も出てきています(この報告書には学者の生の声が多数掲載されています。専門用語が多いので読みづらいとは思いますが、非常に参考になります)。
本連載でもこの「想定外」について考えてみましょう。まず、私の友人の問いかけのうち「東北地方太平洋沖地震が想定外だった理由」について考えてみることにします。そもそも地震学者たちは超巨大地震の発生をどのように捉えていたのでしょうか? 今回はその前編(プロローグ)です。

◎地震発生のしくみ

まず地震がどのように起きるのかをおさらいしましょう。これまでにも何度か触れましたが、断層がずれると地震がおきます。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の場合は、海底の大断層がずれ動きました。

図1. 東北地方太平洋沖地震の発生の模式図。Nature誌, 473, 146-148(2011)より引用。

図1は、ニュースや本でよく目にする模式図です。東北日本の岩盤は「北米プレート」と呼ばれています。一方、日本海溝より東側の海底には「太平洋プレート」と呼ばれる別の岩盤が広がっていて、北西方向に年間約8cmの速度で進んでいます。
太平洋プレートは北米プレートと出会い、日本海溝から日本列島の下へと沈み込みます。この2枚のプレートのあいだに作られる大断層が「プレート境界断層」です。
プレートとプレートは摩擦によって互いにこすれあうので、プレート境界断層の周辺の岩盤にはだんだんと歪が溜まります。やがて岩盤が歪の大きさに耐えられなくなったとき、プレート境界断層が大きくずれて歪みを解消します。これが地震の発生です。ところで「プレート」とはなんでしょうか? まず図2(下図)を見てください。

図2. 地球の地形の様子。(上)海と陸で色を塗り分けた場合。海底のうち白っぽい部分は浅い部分を示している。(下)海と陸を同じ色で塗った場合。

これは地球と火星の地図を比べたものです……と思いきや、実はどちらも地球の地図です。上側は見慣れた世界地図ですね。下側は海と陸を塗り分けていない世界地図です。地球から海を取り除いた地図と考えるとよいでしょう。こうすると、陸上だけでなく海底にも山や谷が沢山あることがよく分かります。いやむしろ、海底のほうが陸上よりも凸凹しているようにも見えます。
例えば大西洋の真ん中には、南北約2万kmに渡って海底大山脈が続いています(図2の矢印)。これは大西洋中央海嶺(「海嶺」は「かいれい」と読みます)と呼ばれていて、平らな海底から見上げるとその高さは2000~4000mにもなります。そのうち、一部は島になって海の上に顔を出していますが、大部分は海の中に隠れているので私達はその存在を忘れがちです(実際、この海底大山脈が見つかったのは比較的新しく、いまから140年ほど前です)。
大西洋だけでなく、太平洋やインド洋・南氷洋など、世界の海底には海嶺が見つかっていて、その多くは互いにつながっています。つまり世界を一周する勢いで海底大山脈が伸びているのです。

◎海嶺の誕生

海底大山脈(海嶺)はどうやってできるのでしょう? 図2にはそのヒントが隠されています。大西洋中央海嶺は南北にまっすぐに伸びているのではなく、蛇のようにクネクネと曲がっています。その形は南北アメリカ大陸の東側の海岸線や、ヨーロッパ・アフリカ大陸の西側の海岸線とよく似ています。ならば、海岸線ができた理由と海嶺ができた理由を、同時に説明したくなりますね(注3)
さらに大西洋の海底から泥や岩石を採取して詳しく調べたところ、“海嶺の付近ほど海底の年齢が若く、遠ざかるほど古い”ことが分かりました。このような観測事実から図3aのような「拡大する海底」が提案されました。1960年頃の話です。つまり海嶺は海底火山の連なりであり、ここでマグマが噴き出して海底が生み出されます。誕生した海底は海嶺を中心として左右に分かれて拡大していくのです。

(a)

(b)

図3. 米国地質調査所によるアニメーション。(a)海嶺で海底が生み出され、左右に広がっていく様子。(b) 約1億5千万年かけて大西洋の海底が広がり、大陸が分裂していく様子。 http://geomaps.wr.usgs.gov/parks/animate/

海底が動くと大陸も押し動かされます。南北アメリカ大陸とヨーロッパ・アフリカ大陸は元々ひとつの大きな大陸でした。これは超大陸「パンゲア」と呼ばれていて、オーストラリア大陸や南極大陸も一体でした(「パンゲア」とはギリシャ語で「すべての陸地」という意味だそうです)。
超大陸の証拠ですが、現在の大陸をパズルの「ピース」と考えると、大陸と大陸の「繋ぎ目」に当たる部分で同種の化石が見つかっています。また陸上の岩石磁気の測定からも約2億年前には大陸と大陸がくっついていたことが示されています(詳細はまた改めて紹介しましょう)。
ところがあるとき(理由は完全には解明されていませんが)、超大陸パンゲアの真ん中で火山活動が盛んになり、やがて大陸が東西に裂け始めました。大西洋の誕生です(図3b)。誕生後も大西洋の海底は拡大を続けます。このために大西洋中央海嶺の山脈の連なりと、大西洋沿岸の海岸線の形状が似通っているのです。
「ええー、ホント?」
科学者も当初は半信半疑でしたが、このアイデアを支持する観測結果は続々と出てきました。例えば地球から遠く離れた星からの電波を利用して、ドイツとアメリカのあいだの距離の変化を測ってみたところ、大西洋を挟んだ2地点は1年に約2cmずつ広がっていたのです。
こうして生まれたアイデアが「プレートテクトニクス」です(図4)。

図4. プレートテクトニクスの概念図。海洋プレート(リソスフェア)は海嶺(海底火山)で生まれて、海溝から陸地の下に沈み込む。日本列島のように海洋プレートが沈み込むエリアは「沈み込み帯」と呼ばれている。ベレ出版『地底の科学』より。

そして地震の起き方の違いをプレートテクトニクスで説明できないだろうか? というアイデアも生まれます。このように地球を知る学問は発達する一方なのに、なぜ東北沖で超巨大地震が起きることが予想できなかったのでしょう? 次回に続きます。


注1:纐纈一起,2011,地震の科学の行方は?~ 東日本大震災から 1 ヶ月,地震学者は何を思うか, エルゼビア・ジャパン,特集 : 研究者インタビュー第 8 回. http://www.elsevier.com/jp/early-career-researchers/interviews/2011_04_interview.pdf

注2:下記よりダウンロード可能です。 http://zisin.jah.jp/pdf/SSJ_final_report.pdf

注3:「似ている」だけで「同じ理由」とするのはやや早計です。例えば海岸線のでき方と海底大山脈のでき方を、別々の過程で考えることも可能でしょう。ただし科学はより簡単な説明の方を好みます(これは「オッカムの剃刀」として知られています)。「プレートテクトニクス」は海岸線と海底大山脈のでき方を同時に簡単に説明できるので、科学に愛されたのです。一方、単純さに目を奪われすぎると本質を見誤るのもまた事実。「想定外」はまさにその時起きます。ここが科学の真の難しさでもあります。

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)