EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると僕は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第1話

世界一深い穴でもまだ浅いのだ

文と絵 後藤忠徳

「地下を探る」。この一文からどんな絵が思い浮かびますか? スコップやシャベルを思い浮かべる人、ドリルのついた大きな装置で地下を掘る様子をイメージする人、あるいは地下鉄や地下街を連想する人、いろいろだと思います。でも多くの人は共通して「穴を掘る」様子を思い浮かべるようです。

◎ヒトは穴を掘る動物

子供の頃を思い出せば、誰しも「地面の下はどうなっているんだろう?」と思ったことがあったはずです。「地下深くへ掘り進んでいったら、地球の裏側まで行けるのかな?」なんて思いつつ、砂場を一生懸命掘り返してみたり(でも夕飯の時間になってあきらめて帰る。そして次の日は、穴掘りのことを忘れて違う遊びに熱中)。あるいは近所の古い下水道が気になったことはありませんか? 真っ暗な出口が口を開けているけれど、その奥に進んでいったら何があるのだろう?(でも入る勇気はない)
そういえば全国各地には"伝説の洞窟"がたくさんありますね。例えば神奈川県の江ノ島には、そこから遠く離れた富士山までつながっていると言われる洞窟があります。昔も今も、地下の世界には言葉に表せないような魅力があり、同時にちょっとゾクゾクするような恐ろしいような感覚も潜んでいるようです。
穴掘りに話を戻しましょう。地面を掘りたい! と思うのは子供だけではありません。大人になってからも穴を掘ることが大好きな人たちもいます。
千葉県にある成田ゆめ牧場では穴掘り大会を毎年行なっていて、2014年2月には第14回「全国穴掘り大会」が行われました。30分のあいだにスコップ・バケツ・ロープを使って一番深く穴をほったチームが優勝! というシンプルなルールです。参加チーム総数はなんと270以上! 参加者総数は1000名以上! そして優勝チームの記録は深さ3m以上!!(たったの30分間で)全国各地から穴掘り大好きな人たちが集まる恒例のイベントとなっています。

◎穴を掘る仕事

私自身も(趣味ではなく仕事で)穴を掘ることがあります(図1、2)。深さはおよそ1m。「穴を掘っていると無心になれる」、誰かがそういう話をしていた記憶がありますが、そのとおりですね。穴掘り作業中は「穴を深くする」ことしか考えていません。穴掘りには達成感もあります。シャベルを1回掘り進めるたびに、自分の足の下の(ほんの少し下だけれども)誰もまだ見たことがない地下が姿を見せる。土ばかりかと思いきや、掘り進む途中から砂の地層に変わったりして。あるいは岩石の地層に出合ったりして(でもこうなると最悪! 人力ではもう掘り進むのは困難です…)。総じて考えれば、穴を掘る魅力の源は「好奇心」かもしれませんね。

図1 私が使っている「ある装置」。白色の棒状の装置です。

図2 その内の1本を地下に埋めた様子。写真中央の白い部分の下に「ある装置」の本体が埋もれています。
え? なんで私は穴を掘っているのか、だって? すみません、申し遅れました。私は後藤忠徳と申します。研究者です。大学で教鞭をとっていますが、一言で言えば「地底探査の専門家」です。先ほどの装置も(ドリルとかはついていませんが)地下を探査する装置です。その辺りの解説はまた追ってお話することにしましょう。

◎ロシアの穴は世界一

さて、人類の飽くなき欲求である「穴掘り」が国家規模で行われたこともあります。現在、世界で一番深い井戸として知られているのは、ロシアのコラ半島にある掘削坑("くっさくこう"と読みます)です(図3)。

図3 コラ半島超深度掘削坑の位置。Google Mapより。ロシアとフィンランドの国境付近に位置しています。
その深さは1万2262m。この穴を掘り始めたのは1970年、現在のロシアの前身である旧ソビエト連邦が進めたプロジェクトでした。掘削から約20年後の1989年に世界最深記録を更新しましたが、当時のソビエト連邦は巨額の費用と長い時間をかけて、一体なんのためにこんな深い穴を掘ったのでしょう? 地下の埋蔵資源を探すため? まさか軍事目的? いえいえ、これは科学的な掘削計画だったのです。「私たちが住む大地の下はどうなっているのか?」という疑問は、日本人だけでなく世界中の人が抱く共通の疑問です。旧ソビエト連邦は大陸を掘り進んで、「地殻」の深部がどんな岩石からできているのかを調べようとしました。

図4 地球内部構造の模式図。マントルはさらに4層に、核は2層に区分されています。

「地殻」とはなんでしょうか? 地球は大きく分けて3つの層からなることが知られています。表面は「地殻」、その下は「マントル」、一番深い部分は「核」と呼ばれています(図4)。これはよく卵の構造に喩えられます。卵の殻=地殻、白身=マントル、核=黄身、というわけです。このうち、地殻の厚さは30km程度で、その上半分は「上部地殻」、下半分は「下部地殻」と呼ばれています(図5)。おっと、いきなり専門的になってしまいましたね。そんなことがどうやったら分かるのか? というお話は、またボチボチとさせていただくことにしましょう。


図5 地面の下の模式図。地殻~マントル上部を示しました。火山や断層は地殻の変形と深い関係にあります(ベレ出版『地底の科学』より、一部改変)。
コラ半島の堀削坑の最終目標は、上部地殻と下部地殻の境目を掘り抜くこと、すなわち地表から1万5000m(15km)まで掘ることでした。予定では1993年にその深さに達するはずでしたが、180℃以上という地下の高温に阻まれたため、1992年に計画断念(そのあいだの1991年に旧ソビエト連邦も崩壊してしまいました)。実に20年以上の掘削作業によって達成された世界記録でした。ちなみに掘削計画終了後、施設は廃墟と化していて、訪れる人も少ない様子です(図6、7)。

図6 2012年時点のコラ半島超深度掘削坑。豪快に打ち捨てられております。(http://en.wikipedia.org/wiki/Kola_Superdeep_Boreholeより)

図7 これがコラ半島超深度掘削坑本体だそうな。入口の下は、地下約12kmまで続いていたんですね。(http://en.wikipedia.org/wiki/Kola_
Superdeep_Borehole より)

◎地球はデカイ

ちなみにアメリカも同様な計画を立てていました。その名は「モホール計画」。地殻とマントルの境目は「モホロビチッチ不連続面」、通称「モホ面」と呼ばれています(図5)。ここを掘りぬく穴を、Moho+Hole=Mohole(モホール)と名づけたのです。
しかし、あまりに大掛かりで技術的に困難だったモホール計画は、実施されることなく終了しました。この計画が立てられた1950~60年代は東西冷戦時代であり、アメリカと旧ソビエト連邦は何かにつけて競い合っていました。これらの掘削計画も冷戦とは無関係とは言えないでしょう。
さて、国家の威信をかけた「穴掘り」の話をいたしましたが、一方で地球はデカイ。半径はおよそ6400km。地球を玉ねぎの大きさくらいに縮めて考える場合、深さ約12kmの人類史上最深の穴をもってしても、玉ねぎの薄皮(茶色で薄い部分ね)をようやく貫通する程度。地球の大部分は穴掘りでたどり着くことはできないのです。まして、地球の裏側まで穴を掘り抜くなんて、夢のまた夢。

◎震源は深いよ

地球の中が分からないとワクワクすると同時に困ることもあります。その一例が地下からやってくる自然災害である「巨大地震」の予測です。例えば1995年に神戸市や淡路島などで多くの被害が発生した阪神・淡路大震災の場合、災害の源は「兵庫県南部地震」でした。
地震とは、地下の岩石が壊れて、ずれ動く現象です。このとき、地面は大きく揺すられます(この揺れ自体も"地震"と呼ばれています)。地震の際に、岩石が最初に壊れ始めた場所を震源と言います。兵庫県南部地震の震源の深さは約16kmでした。人類が、かつて到達したことがない深さで地震が発生したのです。
2011年の東日本大震災の源である「東北地方太平洋沖地震」の震源は、深さ約24kmでした。これも深すぎて穴掘りでは届かない。

◎見えないものを見る

つまるところ、人間の目に見えない深さで"事件"は起きている。見えない深さの出来事を、私たちは「見る」ことはできるのか? 日頃、五感=すなわち視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚を駆使して生きている私たち人間は、五感で感じられない現象、例えば目に見えないことは「ないこと」と思いがちです。しかし地下の様子は単純ではなく、想像するよりもずっと複雑なはずです。
最初に示した一文である「地下を探る」ためには、穴を掘らずに地下を透視するテクノロジーが必要です。そんなことは可能なのでしょうか? また、地下探査は私たちの生活にどのように役立っているのでしょう?
この連載では、皆さんが感じているであろう「素朴な疑問」に対して、最新の地下探査科学を紹介しながら、一人の専門家として答えていきたいと思っています。今回はそのプロローグでした。
次回以降は、日本人なら誰でも気になる地震のお話、すなわち「なぜ、地震予知は難しいのか?」「どうやれば地震の予知・予測が可能となるのか?」といったお話とともに、地下のことを考えてみたいと思います。
また地震以外にも地下資源や地下生命などの話題にも触れていきたいと思います。自分たちが歩いている地面の下はどうなっているか、日頃から考えている人は少ないでしょう。しかしそこにはいろいろは発見が満ちているのです。「目には見えないことを科学する」という楽しさを、この連載を通じて実感していただければと思います。

つづく