EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員、京都大学大学院工学研究科准教授を経て、2019年から兵庫県立大学大学院生命理学研究科教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第17話

火山噴火予知は可能か?(5)

文と絵 後藤忠徳

火山噴火シリーズの第5回目、今回は火山の内部を覗き見る方法をお教えいたしましょう。これができれば、火山噴火を事前に(しかも具体的に)予測できるかもしれませんね。といっても火山に穴を掘るわけではありません(熱い火山を掘るのは大変です)。いったいどうやったら火山の中を透視できるのでしょうか?
地下を透視する方法を説明するために、まず、電車・バスなどでお馴染みのICカード乗車券の話から始めましょう? え、なぜ、火山なのに乗車券? まあ、慌てずに。しばしお時間をお借りします。

図1. 新燃岳(九州南部の霧島山)の噴火(2011年3月13日撮影、注1)

◎ICカードはなぜ動く?

ICカードとは文字どおり、薄いカードの中にICを閉じ込めています。ICとは「集積回路」(英語名はIntegrated Circuit、略してIC)のことです。パソコンや携帯電話の中にもワンサカ入っている電子パーツです。すなわちICがあれば、カードの中にいろいろなデータを覚えさせることができて、無線で通信もできちゃう。なので、いつどの駅で改札を通ったか、ICカードにはあと何円残っているか、などをICカード乗車券は記憶しています。またICカードを改札機に近づけるだけで「ピッ」と音がして料金精算ができるのです(カード残額が少ないと「ピコンピコン」と警告音がなって恥ずかしい思いをします)。この「ピッ」という音が鳴る直前に、ICカード乗車券は改札機と無線通信をしているのです。目にもとまらぬ早業なので、普段は気にしませんね。
ところで気にしないといえば、ICカード乗車券に電池って入っているかどうか、気になった方はおられますか? ICは電子パーツの一つですから、電気がないと動きません。ICカード乗車券が電池切れって、そんなことあるの? 電池ってどうやって取り替えるの?

図2. ICカード乗車券の一例。「電池」はどこに入っているのかな?

ご安心を。図2のようなICカード乗車券には電池は入っていません。だから電池切れもないし、電池を交換しなくても大丈夫……あれ? じゃあ、ICカード乗車券の電源ってどこにあるんだろう? どうやったらICカード乗車券の電源をオンにできるんだろう?
その仕組はこうです(図3)。まずICカード乗車券を改札機にかざします。改札機の内側には電流が流れています。するとあら不思議、改札機に触れていないのに、ICカードにも電気が流れ始めるではありませんか! 実はICカードの内部には金属製のアンテナが仕込まれています。ICカードを改札機にかざすと、改札機に流れる電流がICカードのアンテナにも(まるで乗り移るかのごとく)流れ始めたのです。こうしてICカードの電源はオンになり、改札機との無線通信を開始できました。「ピッ」と音がしたら、はいイッテラッシャイ!!(or オカエリナサイ)。なので、ICカード乗車券には電池が要らないのです。毎日使っている必須アイテムでも、こういう仕組みって案外考えませんね。

図3. ICカード乗車券に電気を送る仕組み。改札機に電流が流れると、ICカード側にも電流が流れる。これによってICの電源がオンになるのだ。

このように、改札機の電流が(改札機に触れてもいない)ICカードに流れ始める現象を「電磁誘導」と呼んでいます。離れていても働くのが特徴です。
また、改札機の電流が「交流」であることも重要です。交流とは時間とともに強さが周期的に変化する電流です(100Vコンセントからは交流が流れています)。これに対して、ずーっと同じ強さの電流は「直流」と呼ばれます(乾電池は直流です)。直流だと電磁誘導はおきません。交流の時だけおきるのです。まるで忍法や手品みたいです。


◎地球サイズの電磁誘導

さてこの現象を地下の調査へ応用することができます。ここからスケールの大きな話になります。まず空を仰ぎ見て下さい。いい天気。青い空。その空の上のほうでは、私たちの目には見えませんが、電気が流れています(図4)。え? と思いますよね。当然です(笑)。
空気には普通、電気は流れませんが、空気の上層部では紫外線やX線の影響で空気の分子がプラスとマイナスの電気を帯びたイオンに分離しています(「電離」と呼びます)。この空気の層は「電離層」と呼ばれていて、電気を通す特殊な空気の層です。ここには絶えず電流が流れており、電流の強さは時々刻々変化しています(交流)。そう、駅の「改札機」と同じなのです。

図4. ICカード乗車券と同じことが地球スケールでもおきている。上空の「電離層」を流れる電流が、地中にも電流を生み出す。これを詳しく調査すれば、地下の様子を知ることができる。

そうなると電離層から離れた地面にも電気が流れ始めます(図4:電磁誘導により生じる電流なので、誘導電流と呼んでいます)。「ICカード乗車券」に相当するのが「地面」というわけです。地表だけでなく、地下深くにも電気が流れます。なんとも壮大な現象です。このときに流れる電流を詳しく調べることで、地下のどこに電流がよく流れているかを調べることができます。
例えば、マグマや地下水は普通の岩に比べて電気を通しやすい性質を持っています。ですので、地下に電気の通りやすい地層があれば、地下水やマグマがそこに含まれている可能性があると考えることができます。
実際にどのようにして、この壮大な現象を測定しているかについては次回に詳しく述べることにして、今回はこの地下探査手法(地磁気地電流法あるいはマグネトテルリク法、略してMT法と言います)によって明らかにされた、火山内部の様子を見てみましょう。

◎富士山の内部を見た!

まずは富士山の地下断面図をご紹介します。第14話でご紹介したように、富士山も立派な活火山で、噴火する恐れがあります。富士山の地下の電気の通りにくさ(電気抵抗:より正しくは比抵抗)をMT法により可視化した結果を図5に示しました。
富士山の真下、深さ20 ~ 50km の地域には周囲よりも10倍~100倍ほど電気が流れやすい部分(図5のC1の部分:赤色)が見られます。この部分のすぐ上には火山特有の地震活動がみられます(図5の星印)。低周波地震といって、普通の地震よりも低い周波数の振動(ガタガタガタというよりもユラユラユラとした揺れ)を発生する特殊な地震です。電気の流れやすい部分や低周波地震は、富士山直下にあると思われるマグマ溜まりや、マグマから出てきたガスや熱水(熱い地下水)と関係があると考えられています。

図5. 富士山の地下の電気の流れにくさ。MT法を用いて可視化した例。Aizawaら (Geophysical Research Letters, 2004)に加筆。

別の火山も見てみましょう。今度は北海道の札幌市郊外に位置する火山「無意根山(むいねやま)」の地下を、やはりMT法を用いて探ってみました(図6)。無意根山は活火山ではなく、比較的古い火山だと言われていますが、火山の山頂から3km程の地下には電気が流れやすい部分が広がっています(図6の赤色の部分)。これもおそらくマグマ溜まりか、マグマからでてきた熱水を含む地層を示していると考えられています。
古い火山であったとしても、地下のマグマが冷えて固まってしまうのには何万年・何十万年という長い年月が必要なのだと思われています。ちなみにこの地域では豊富な地熱を利用した地熱発電が検討されています。

図6. 図6. 北海道の無意根山の地下の電気の流れやすさ。MT法を用いて可視化。Takakura and  Matsushima (Resource Geology, 2003)に加筆。

今回は電気を用いた地下の透視方法を紹介しましたが、これ以外にも磁気を使う方法、重力を使う方法、地震の揺れを使う方法、そして宇宙線を使う方法など、さまざまな方法が試されており、科学的な成果を挙げています。
このように火山の下を透視して、どの深さにマグマや熱い地下水があるかがわかれば、前回お話ししたような火山の噴火のメカニズムも明らかになるでしょうし、火山噴火予知もできるのではないか? と期待が持てます。
次回は火山シリーズの締めくくりとして、未来の「火山噴火予知」について考えたいと思います。


注1:物理探査ニュースNo.12(2011)表紙より。撮影は小山崇夫氏。
http://www.segj.org/letter/news_no12.pdf

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)
第8話 想定外と想像内の狭間で(2)
第9話 想定外と想像内の狭間で(3)
第10話 想定外と想像内の狭間で(4)
第11話 地中の埋蔵金の探し方(2)
第12話 地中の埋蔵金の探し方(3)
第13話 火山噴火予知は可能か?(1)
第14話 火山噴火予知は可能か?(2)
第15話 火山噴火予知は可能か?(3)
第16話 火山噴火予知は可能か?(4)