EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員、京都大学大学院工学研究科准教授を経て、2019年から兵庫県立大学大学院生命理学研究科教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第6話

地中の埋蔵金の探し方(1)

文と絵 後藤忠徳

前回まで、地震のマグニチュードや緊急地震速報の話をしてきました。ご存知のとおり、地震は地下深くで起きますが、そのメカニズムを探るにしても、目では直接見ることができない地下世界をいったいどうやって調べるのでしょうか? 今回は、地震そのものの話をちょっとお休みして、地下を調査するテクノロジーの話をしましょう。

◎あなたならどうする?

誰もがぱっと思いつく地下の調査方法、それは穴掘りです。本連載の第1回目でも世界で一番深い井戸の話をしました。ロシアのコラ半島にあった井戸で、深さは1万2262m。およそ12kmです。一方、地球の半径は約6400km。もしも地球をサッカーボール(直径22cm)にたとえると、この穴の深さはわずか0.2mm程度。ボール表面の皮の厚さの10分の1以下にすぎません。人間の叡智を結集した大深度掘削なのに、地球と比べると浅い、浅い。
非公式ですが、ロシアのサハリンではもっと深い井戸が掘られているようです。先ほどのコラ半島の井戸は純粋に科学的な興味のために(大陸の地下はどうなっているか? を探るために)掘られたのですが、サハリンの井戸は天然ガス採掘用です。2011年に達成された世界新記録、その深さは1万2345mだそうです。覚えやすい数字ですね(注1)。しかも、この井戸を掘るのには約60日間しかかからなかったらしい。新記録も地球のサイズと比べたら浅いことに変わりはありませんが、富士山の高さの約3.3倍に匹敵する深さの井戸をたったの2か月間で掘ったのですから、やはりすごい。ちなみに日本で一番深い井戸(石油・天然ガス調査用)の深さは6310mだそうです(図1)。

図1. 1992年頃に新潟県で掘られた日本で一番深い井戸(6310m)。深さ6000m級の井戸ですが、富士山と並べてみるとこんな感じ(INPEXホームページより、http://www.inpex.co.jp/
museum/ 03/contents02.html
)。

このように穴を掘ったら地下の問題は万事解決のように思われるかもしれませんが、井戸で覗き見る地下の世界はあまりにも細くて狭い。深井戸の直径は数十cm程度(底の方では20cm以下)なので、人間は中に入れそうにありません。井戸でできることと言えば、地下深くの岩石を採ったり、各種センサーを中におろして地下の温度や地層の様子を調べたり。これらはもちろん非常に貴重な地下の情報ですが、井戸さえあれば地下の様子がすべて手に取るように分かる! というわけにはいきません。
地下世界を知る難しさは、「ストローでケーキを食べる」ことを想像すると少し分かるかもしれません。いま、目の前に美味しそうなショートケーキがあると思って下さい(図2)。でもあなたは目隠しされてしまいます。しかもフォークの代わりにストローを渡されました。さあ、これでケーキを食べてみましょう。ストローをケーキに挿してズズーッっと吸ってみても、ジュースじゃないので飲むことはできません。ストローをケーキに挿して、ストローの内側に詰まっているケーキをちょっとずつ食べるしかないですね。ああ、なんともどかしいことか。しかもどんなケーキを食べているのかは、今ひとつよく分からない。これじゃあ、美味しかったとは言えなさそうです。

図2. ストローを挿してケーキを食べると……。

目隠しをとってケーキの断面を見るように、地面の下を覗いてみたい……。でも、現実には、地下を掘るのにはお金も時間もかかり過ぎるのです。仮に10mの井戸を掘るだけでも10万円以上かかります。深さ10kmの井戸だと1本あたり何億円もかかるでしょう。これじゃあ地下を調べるために井戸を何十本も掘ることなんてできない。何かほかにいい方法はないでしょうか?

◎地底を透視できたら

目では見えないものを見る。そんな場面は日常生活でも沢山あふれています。例えば曇りの日や晴れていても空が霞んでいる日には、遠くの飛行機を目で確認することは難しい。そこで空の安全を確保するために、空港などには「レーダー」が装備されています。
レーダーの原理は簡単(図3)。まずアンテナから空中に電波を発射します。空気の中を電波はまっすぐに進みますが、飛行機があれば電波は跳ね返されます。このとき、アンテナと飛行機のあいだを電波が往復する時間を測れば、空中を電波が進む速度はおおまかに分かっていますので(秒速約30万km)、飛行機までの距離を知ることができます。飛行機だけではありません。雨雲も電波を跳ね返しますから、雨雲がどこにあるかを知ることもできます。アンテナを東西南北へ360度、クルクルと回すとあちこちの方向の飛行機や雲の位置を知ることができます。こうして肉眼では見ることができない遠く離れた空の様子を監視できるというわけです。

図3. 航空用や気象観測用のレーダーの原理。アンテナ(右)から電波を送り、飛行機や雲の位置を探っている。

では、レーダーのアンテナを空に向けずに地下へ向けたらどうなるでしょう? 何も映らないかと思いきや、なんと地下の様子を掘らずに見ることができるのです。これは「地中レーダー」と呼ばれています(図4)。その原理は航空用のレーダーとほぼ同じ。違うのは電波を空ではなく地中へ向けて送る点と、アンテアをくるくると回す代わりに引っ張って移動する点です。こうすれば、金属や水を含む地層、空洞などが地下の何m下にあるかが分かり、地下の断面図を得ることができます。

図4. 地中レーダーの仕組み。『地底の科学』(後藤忠徳著、ベレ出版)より。

◎ここ掘れワンワン

地中レーダーの探査結果の一例を紹介しましょう。ある学校のグラウンドで、図4のように地中レーダーを引っ張って、地下を調べてみました。すると地面の下に、横方向に続くシマシマ模様が見えました(図5の上側)。まるでショートケーキかミルフィーユの断面のようです。これはきっと地下の地層でしょう。「地層」とは、水平方向に広がっている砂や粘土などの層です。ここはグラウンドですから、自然の地層ではなく人工的に整えられた地層なのでしょう。探査を続けていると今度は、グラウンドの一角で地層の一部が電波を強く反射することが分かりました(図5の下、点線の枠内)。これはどうやら金属の箱のようです。はてさて何が埋まっているのかな?
グラウンドと言えば、小学校を卒業するときに「タイムカプセル」を埋めたっけなぁ。クラスのみんなで当時の新聞の切り抜きとか写真とか、オモチャとか思い出の品を金属の箱に入れて、グラウンドの下に埋めたよなぁ。あれ、どこに埋めたんだっけ? ハッ、もしかしたら、この金属の箱は誰かが埋めた「タイムカプセル」かも!?

図5. グラウンドで地下探査。上側:地下に人工物が埋まっていない場所での結果。下側:地下に金属箱が埋まっている場所での結果。図中の白色は、電波を強く反射する物質があることを示している。地表からの深さは20~50cmくらい。
さらに詳しく調べると、東西南北4m四方の場所のちょうど真ん中付近だけ、電波を強く反射する場所がありました(図6)。地中レーダーは、花咲かじいさんの名犬「ポチ」の現代版と言えます。「ここほれワンワン!」「よーし、掘ってみよう!」、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、カチン!「おお、金属の箱だ!」。タイムカプセル発見!?

図6. 地中レーダーを使って、地下を3次元的に調べてみた。地層が連続している様子が見える。また調査地域の真ん中に、電波を強く反射する(白色)物質がうまっているらしい。掘ってみたら、確かに金属の箱が見つかった。

このようにして地下に埋もれている金属の箱を見つけることができるのです。ちなみに先程の金属の箱の正体ですが、ごめんなさい、地下探査の練習用に私自身が埋めたものでした。中身はカラッポ。ざんねん。でもこうやってグラウンドの下に忘れ去られたタイムカプセルや、どこかに埋もれたままの宝箱を見つけることができるのは本当です。埋蔵金なども探せます(ご用命がございましたらぜひご一報を!)。

◎暮らしの中の地下探査

冗談のようなお話ばかりしましたが、地中レーダーは私たちの生活にも深くかかわっています。例えば道路の下に埋もれているガス管や水道管を探す際に、地中レーダーが活躍しています。今度、道路工事の現場を通りかかったら、注意してみて下さい。図4に示した掃除機のような装置や、あるいはベビーカーみたいな装置を押している作業員の方がおられたら、地中レーダーで地下探査をしているところかもしれません。話しかけてみると、探査結果を見せてくれるかも? (でもその前に、ものすごーく怪しまれると思いますが)。
あるいは道路の下に隠れている陥没を地中レーダーで探すこともできます。図7に陥没の一例を示しました。このようにポッカリと穴が開いている様子は怖いですが、穴が開く前はもっと怖い。この穴が地表に顔を出すその前から、道路の下の砂や土は地下水の流れなどで削られてしまっていたのです。でもアスファルトやコンクリートで覆われているので、ぱっと見では分からない。つまりは「でっかい落とし穴」が人知れず、道路の下にできていたというわけです。地中レーダーを使って見えない落とし穴を事前に見つけて、事故が起きる前に陥没を修繕できたら安心ですね。

図7. 道路陥没の例(撮影:森下秀夫氏、ベレ出版『地底の科学』より)。山道だけでなく、街中の国道や遊歩道などでも同様の陥没は発生している。

今回はここまで。今後もコラム的に、地下を探るテクノロジーの世界をご紹介しようと思っています。お楽しみに!


注1:誰がどうやって穴の深さを測るのか? 私も詳しくは知りません。

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?