あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?
来ると思う人は、備えができていますか?
来ないと思う人は、その根拠がありますか?
地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、
思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。
著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)
大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員、京都大学大学院工学研究科准教授を経て、2019年から兵庫県立大学大学院生命理学研究科教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。
平成7年(1995年)1月17日午前 5時46分。神戸を大地震が襲いました(図1)。マグニチュードは7.3、最大震度は7。死者・行方不明者はあわせて6,437名、全壊・半壊した住居は約25万棟。そう、阪神・淡路大震災です。日本はそれまでも多くの地震災害に見舞われてきましたが、21世紀を迎えようとする大都市の直下で起きた大地震は、日本中はもとより世界中を震撼させました。
図1. 神戸市ホームページ「阪神・淡路大震災の記録:震災記録写真集」より(http://www.city.kobe.lg.jp/safety/hanshinawaji/data/photo/index.html)。左:神戸市灘区六甲町、右:同兵庫区水木通。神戸の大学に通っていた私にとって、震災前の六甲町も水木通も思い出深い場所。
この地震をキッカケに、日本は世界にも類を見ない高密度の地震観測網と地殻変動観測網の整備に着手します。前者は独立行政法人防災科学技術研究所が運用する高感度地震観測網「Hi-net」、後者は国土交通省国土地理院が運用するGPS連続観測システム「GEONET」です。
Hi-netでは地中に掘った井戸の中に設置した高精度地震計を用いて地面の微弱な揺れを検出し、GEONETではカーナビでお馴染みのGPSのアンテナを大地に固定して、地殻変動の検出を可能としました。
このような観測網が2011年の東日本大震災の前に完成していたにもかかわらず、東北地方でマグニチュード9の超巨大地震が起きることに対しては国も専門家もノーマークでした。ハイテク機器を投入していたのにナゼ? 今回のテーマは「新しい発見」です。
日本の地震・地殻変動観測網の規模は、気象観測網の規模とほぼ同じであることは案外知られていないようです。地震観測網のHi-netは日本全国に約800か所、地殻変動観測網のGEONETは約1,200か所に観測点が配置されています。観測点の間隔は概ね20~30kmです。
一方、気象庁の地域気象観測システム「アメダス」の観測点は約800~1,300か所にあり(注1)、Hi-netやGEONETと同じ規模です。「アメダス」のほうが圧倒的に有名なのは、やはり天気予報のおかげでしょう。
前回も紹介したように、東北地方の下には太平洋プレート(海洋プレート)が沈み込んでいます(図3)。日本列島側のプレートと海洋プレートがプレート境界でお互いにくっついている場合(これを“固着”といいます)、海洋プレートが西の方へと沈み込めば、それにつられて日本列島全体も西の方向へ押されます(図3下)。他方、プレート境界が固着していなければ、海洋プレートはスルスルと日本列島の下に沈み込むので、日本列島は西方へ移動しません。
このように、プレート境界の固着の程度によって、陸地の動き(地殻変動)には違いが生まれます。ということは、GEONETによる地殻変動観測から、プレートの固着度を推測することができるという仕組みです。
解析の結果、宮城県~福島県の沖合ではプレート境界が固着していることが分かりました(図4、下図)。図中の赤色の地域では、プレート境界が年間10cmの速度で西へ移動しています。これは太平洋プレートが日本列島の下に沈み込む速度に概ね等しいので、図3下のようにプレート境界は固着していると考えられます。もしもプレート境界が長い期間にわたって固着していれば、その部分では沈み込む海洋プレートが日本列島側のプレートを押し続けるので、岩盤に歪みが溜まることが予想されます。
注1:アメダスとはAMeDAS=Automated Meteorological Data Acquisition Systemを省略したものであり、日本語では「地域気象観測システム」と呼ばれています。降水量を観測する観測所は全国に約1,300か所あり、降水量・風向・風速、気温、日照時間を観測する観測所は約840か所あります。
注2:詳細は以下の資料をご覧ください。 西村卓也, 第189回地震予知連絡会についての報告, 日本地震学会ニュースレター, Vol.23, 2011. http://www.zisin.jp/modules/pico/index.php?content_id=2218 なお、この小文が受理されたのは2011年3月7日、東北地方太平洋沖地震の4日前でした。
注3:なお、宮城県沖ではマグニチュード7クラスの地震が約40年毎に起きることが知られており、そこではプレート境界が固着していると以前から考えられていました。しかし固着は宮城県沖の一部の地域に限定されていると考えられていて、より広い地域でプレート境界が固着しているとはあまり考えられてはいませんでした。
【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)
第8話 想定外と想像内の狭間で(2)