地球上に残された"人類未踏の地"はあるけれど、
潜水艇も宇宙船も使わずカラダひとつで行けるのは地底だけ。
暗くて狭くて寒そうな地底への入口といえば洞窟だ。
国内外1000超の知られざる洞窟に潜ってきた洞窟探検家による、
逆説的サバイバル紀行"洞窟で遭難する方法、教えます"。
著者プロフィール
吉田勝次(よしだ かつじ)
1966年、大阪生まれ。国内外1000超の洞窟を探検・調査してきた日本を代表する洞窟探検家。(社)日本ケイビング連盟会長。洞窟のプロガイドとして、TV撮影のガイドサポート、学術探査、研究機関からのサンプリング依頼、各種レスキューなど幅広く活動。THE NATIONAL SPELEOLOGICAL SOCIETY(米国洞窟協会会員)。(有)勝建代表取締役。同社内の探検ガイド事業部「地球探検社」主宰。ほか探検チームJ.E.T (Japan Exploration Team) と洞窟探検プロガイドチーム「チャオ」の代表。個人ブログ「洞窟探検家・吉田勝次の足跡!」では日々の暮らしから最近の海外遠征まで吉田節で綴る(動画あり)。甘いものに目がない。
本連載で最初に案内する洞窟「霧穴」があるのは三重県。僕の基地のある愛知県から車で4時間ほど。車で行けるところまで行って、持てるだけの荷物を担いで山を1時間登れば、洞窟の入口「洞口」に着く。
こう話すと、けっこう気軽なレジャーだと思うかもしれない。実際、洞窟用の個人装備さえ揃えてしまえば、相乗りする車のガソリン代と高速代を割り勘にするので、懐にやさしい趣味と言えるだろう。ただ、僕の洞窟探検は、探検を充実させるために食事を大切にしているので、とにかく食料が多くて荷物が重くなる。探検なのだから、荷物はなるべく軽量にすべきじゃないかと思うかもしれない。しかし、それは登山のはなしだ。山に登れば目の前に広がる雄大な景色と澄んだ空気がご馳走になるからだ。
一方、洞窟は山と違って、洞内に入ると外からの情報が一切遮断され、光がまったく届かない真っ暗の空間なのだ。一度入ったら昼か夜かもわからなくなる。狭い場所が多く固い岩に囲まれているため閉塞感が常にあり、立ち上がって歩ける場所も少なく、湿度が高くじめじめしていている。地面は大きな岩がごろごろしているガレ場か、洞内を流れる水が運んだ泥でぬかるんでいるか、あるいは水中か。いずれにしてもそこにいるだけで相当にストレスがかかる。なので、心をリセットするために食事ぐらいはおいしく、たのしく、みんなでおしゃべりしながら食べたいのだ。それがひいては、洞窟探検のさらなる充実につながることは、20年以上続けている洞窟探検のリーダーとして実感している。
時計の針を少し戻して、洞窟探検に出発する前日。とくに洞窟内に寝泊まりして探検する時の食材の調達は重要な仕事だ。五人で連泊するなら、食料だけの重さが女性二人分、90キロを超える。生ゆでタイプのうどん、肉、野菜たっぷり、キムチ、僕のソウルフードの赤味噌と、とにかくおいしければいいという方針で食材を選ぶから重くなる。
探検のための装備も含めて、すべての荷物をパッキングするのにメンバー全員で丸1〜2日かかる。探検の成功を決めるのは探検直前のパッキングだと言っても過言ではない。なぜなら、どのバッグに何が入っているか全員で把握しておきたいからだ。そうしないと、厳しい環境の洞窟の中で、例えばよく使う道具の「カラビナをとってくれる?」「え? どこですか?」と返答するようでは、洞内の貴重な時間がもったいないし、ストレスが溜まる。もっと言うと「カラビナ」という言葉さえ省略するために、カラビナを入れたバッグに緑色のテープを貼って色で誰でもわかるようにしておけば、洞内では「緑」と言うだけで、カラビナがほしいのだと相手に伝わるのだ。
洞窟内はただでさえ厳しい環境なので、スムーズなやりとりを実現する必要がある。そういう理由で、荷物の中身を把握するためのパッキングの作業に参加できないメンバーは、翌日からの探検に参加しなくていいと伝えている。
*もっと「洞窟探検」を知りたい人に最適の本:
吉田勝次著『素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書) 』。 本書は当連載を大幅に加筆修正して、新たにイラストレーションを掲載して一冊にまとめたものです。
挿絵:黒沼真由美
対談:五十嵐ジャンヌ
吉田勝次著『洞窟探検家 CAVE EXPLORER』(風濤社)。話題の洞窟王が切り撮った、悠久の時と光がつくる神秘。大自然が生み出した総天然色の魔法! 大判写真集
【バックナンバー】
第1話 怖がりの洞窟探検家
第2話 すごい洞窟の見つけ方
第3話 ある遭難しかけた者の物語 その1
第4話 ある遭難しかけた者の物語 その2
第5話 三重県「霧穴」探検 その1
第6話 三重県「霧穴」探検 その2
*もっと「洞窟探検」を知りたい人に最適の本:
吉田勝次著『素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書) 』。 本書は当連載を大幅に加筆修正して、新たにイラストレーションを掲載して一冊にまとめたものです。
挿絵:黒沼真由美
対談:五十嵐ジャンヌ
大型写真集、吉田勝次著『洞窟探検家 CAVE EXPLORER』(風濤社)。話題の洞窟王が切り撮った、悠久の時と光がつくる神秘。大自然が生み出した総天然色の魔法!