あなたのそばに寄生虫
第13話
日本のマンボウから新種発見
文と絵 脇 司
マンボウには都市伝説的な「噂」が多い。その噂には、本当っぽいものから明らかに疑わしいものまでさまざまだ。
そんな数あるマンボウの噂のひとつに「マンボウには寄生虫が多い」というものがある。これについては
第7話で実際にマンボウを調べて、寄生虫が本当に多いことをこの目で確認できている。
図1. 水族館をゆうゆうと泳ぐマンボウ(大洗水族館にて)。
マンボウの吸虫に注目
さて、マンボウの仲間は数種が知られるが、いずれも世界的に広く分布する。このため、同じ種のマンボウの仲間が世界各地で水揚げされ、さまざまな研究者によって調べられてきた歴史的経緯がある。
寄生虫についても、太平洋から大西洋、地中海に至るまで、色々な海域でマンボウの仲間が漁獲され、その寄生虫が調べられてきた。その結果、マンボウの仲間からは世界全体でおよそ70種の寄生虫が報告されている。
僕の好きな扁形動物の寄生虫の一群「吸虫」に絞っても、その数はおよそ20種に達する。一方で、日本近海ではまだ数種しか吸虫が報告されておらず、記録自体がとても少ない。こうした背景もあり、日本でもマンボウの仲間を丹念に調べれば、もっと多くの吸虫が見つかることが予想できた。
調べるにあたって留意しておかなければいけないことは、最近になってマンボウの分類が見直されている、ということだ。
これにより、過去の寄生虫の研究で、日本近海の「マンボウ」として報告されたものには、形態の類似したマンボウとウシマンボウの2種が含まれることが分かっている。残念ながら、当時の宿主魚がどちらの種だったのか今となっては分からない。というわけで、日本近海のマンボウの仲間の寄生虫相を明らかにするためには、今の基準で宿主の種を明らかにしつつ、その寄生虫を調べていく必要がありそうだ。
図2. マンボウMola mola(DNAで同定済)。マンボウとしては小ぶりなサイズだけど、寄生虫はしっかり付いていた。
そこで僕は、共同研究者の皆さんと一緒に日本近海のマンボウの仲間を集めて調べることにした。その結果、なんと合計497虫体もの吸虫が見つかった。種数は10種にのぼり、このうち4種が新種(今回の研究で記載された種)だった・・・!
この成果により、日本近海のマンボウの仲間の寄生虫相が、大幅にアップデートされたと言っていいだろう。
ここから先の記述は、特に吸虫についてまとめて論文として出版した内容で、すでに見つかっていた種には「既知種」を、この研究で新しく記載された種には「新種」をそれぞれ付けている。
図3. マンボウとヤリマンボウから見出された様々な吸虫。A:マンボウリュウグウキュウチュウ(既知種)Accacoelium contortum。B:ダイオウマンボウキュウチュウ(既知種、染色した標本)Accacladocoelium nigroflavum。C: オドネルマンボウキュウチュウ(既知種)Odhnerium calyptrocotyle。D, E:ベンガラマンボウキュウチュウ(新種)Accacladocoelium mayosenase。
〇マンボウナギナタキュウチュウ(既知種)Accacladium serpentulum Odhner, 1928
宿主:マンボウ・ヤリマンボウ。腸に寄生する。虫体の長さはおおよそ2~4 cm。細長くて茶色いので、他の吸虫と見分けるのは簡単だ。ただし、たまに太めの個体が出る。それが、他の種の吸虫のシルエットと似ていてちょっと紛らわしい。
〇マンボウリュウグウキュウチュウ(既知種)Accacoelium contortum (Rudolphi, 1819)
宿主:マンボウ・ヤリマンボウ。今回得られた吸虫の中で唯一、鰓に寄生する。体長1 cm程度。先行研究では、幼虫がクラゲから記録されている。このことから、マンボウの仲間はクラゲを食べてこの吸虫に感染すると思われる。一属一種。
〇クモガクレマンボウキュウチュウ(新種)Accacladocoelium latens Waki, 2026
宿主:ヤリマンボウ。腸に寄生。5 mm程度の小型種で、ヤリマンボウの大きな消化管では消化管内容物に隠れて見つけにくい。数は少ない。
〇ベンガラマンボウキュウチュウ(新種)Accacladocoelium mayosenase Waki, 2026
宿主:マンボウ・ヤリマンボウ。消化管に寄生。体長1 cm程度。個体差はあるものの虫体の一部または全体が茶色に近い「弁柄(べんがら)色」を呈する。多産する普通種。でも新種。
〇オトヒメマンボウキュウチュウ(新種)Accacladocoelium mica Waki, 2026
宿主:ヤリマンボウ。腸に寄生。体長7 mm。体が小型で細く、宿主の大きな腸の中から見つけることが大変難しい。数は少ない。
〇ダイオウマンボウキュウチュウ(既知種)Accacladocoelium nigroflavum (Rudolphi, 1819)
宿主:マンボウ。腸に寄生。体長1.5~1.7 cmに達する大型種。この属の最大種と思われる。
〇ハラビロマンボウキュウチュウ(既知種)Accacladocoelium petasiporum Odhner, 1928
宿主:マンボウ・ヤリマンボウ。消化管に寄生。体長1 cm程度。腹吸盤という体の中ほどにある固着器官がとても幅広い。虫体後部が急に細くしぼむため寸胴に見える。
〇オドネルマンボウキュウチュウ(既知種)Odhnerium calyptrocotyle (Monticelli, 1893)
宿主:マンボウ・ヤリマンボウ。消化管に寄生。体長1.5 cm程度。腹吸盤が大きく出っ張って、さらに背中に吸盤のような構造があるので、顕微鏡で観察したときに他の属の吸虫と区別しやすい。一属一種。
〇トンガリマンボウキュウチュウ(既知種)Rhynchopharynx paradoxa Odhner, 1928
宿主:マンボウ。消化管に寄生。体長3 cm程度。体の前端が小さくて細いので、虫体前方がとがって見える。腹吸盤は出っ張る。数は少ない。
〇トンガリマンボウキュウチュウモドキ(新種)Rhynchopharynx yarimanbou Waki, 2026
宿主:ヤリマンボウ。消化管に寄生。体長1.5 cm程度。トンガリマンボウキュウチュウ同様に虫体前方がとがって見えるが、この種の腹吸盤は出っ張らないので区別は容易。数は少ない。
図4. マンボウ・ヤリマンボウから出てきた吸虫10種の見分け方。これら以外にも判別点はあるけれど、見分けやすいところを中心に検索できるようになっている。図をクリックすると拡大表示されます。
今回得られた吸虫10種のうち9種が、宿主の消化管から得られた。今後の調査で、例えば「腸内で肛門に近い方がこの種」「胃に近い方がこの種」といったすみ分けも確認できるかもしれない。
図5. マンボウ・ヤリマンボウの吸虫10種の寄生部位。10種のうち1種(マンボウリュウグウキュウチュウ)が鰓に、残りの9種が消化管にそれぞれ寄生する。
また、今回調べた宿主2種のうち、宿主1種からしか見つかっていない吸虫がいる。例えばオトヒメマンボウキュウチュウはヤリマンボウからしか出ていない。しかし、今のところ宿主2種の合計8個体しか調べておらず、個体数として十分とはいい難い。
今後、よりたくさんのマンボウの仲間を調べることで、もう一方の宿主種からも見つかるのかもしれない。残念ながら、日本近海に分布するというマンボウの仲間・・・ウシマンボウは本研究では得られなかった。この宿主の寄生虫相も今後のテーマになるだろう。
つづく