SNAIL

 

職業柄、カタツムリやナメクジを加熱することがある。

熱した個体から立ちのぼるのは、浜焼きのすごくいい香り。

そのとき僕は「彼らは間違いなく貝だ」と実感する。

寄生虫を研究している僕なりに、好きな陸貝の話をしてみたい。

誰にとってもたのしい陸貝入門になるのかどうかはわからないけれど。



著者プロフィール
脇 司(わき・つかさ)

1983年生まれ。2014年東京大学農学生命研究科修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、済州大学校博士研究員、2015年公益財団法人目黒寄生虫館研究員を経て、2019年から東邦大学理学部生命圏環境科学科講師。貝類の寄生生物を研究中。フィールドで見つけた貝をコレクションしている。

 

寄生虫を研究している僕が
カタツムリとナメクジについて
語りたいときに語ること

第16話

カタツムリの良さは外見で判断できる?

 文と写真 脇 司


どれもソックリだが・・・

人は外見で判断してはいけません、とはよく言ったものだけど、生きていると「外見って、やっぱり大事だね」と思うことも結構ある。服や表情には、どうしても持ち主の性格がでてくるのではあるまいか。それではカタツムリはどうだろう。カタツムリの良しあしを外見で判断できるのだろうか。とはいえ、日本のカタツムリはみな同じ形をしている。カタツムリのグループによって外見は大きく違ってくるけれど、同じグループの中で比べてみると、見た目がどれもそっくりだ(図1)

図1. 日本の陸貝の写真。A~Cはナンバンマイマイ科Euhadra属(いわゆるデンデンムシ)のうち、3種を例として引き合いにだしたもの。これとは違うグループがD~Fで、こちらはキセルガイ科の3種である。グループが違うと形は違うけれど、グループ内だと違う種でも形は似たり寄ったりだ。

日本に陸貝は800種もいて、図1のようにグループ内で形が互いにとても似ているわけだけど、僕がまだ陸貝をとりはじめて間もないころ、陸貝の種を同定するスキルはほとんどなかった。いや今も、見慣れていない九州の陸貝を種同定するときにはあやしいことがあるけれど、当時はそういうレベルではなくて本当に種が判らなかった。ナミギセルとハコネギセルの違いすら分からなかった。哺乳類で例えていうなら、ヒトとチンパンジーぐらいの差はあるやつらだ。そんなペーペーの僕にやさしくも厳しく陸貝の種同定を教えてくれたのが僕の師匠なのだけど、その話は置いておく。どうやって殻で種を見分けることができるのか、その話をしてみよう。

図2. ナミギセルとハコネギセルの殻。A:殻正面。B:殻口正面。C:ナミギセルのプリカ。内部の殻構造が透けて見えている(矢印)。

上の写真で見る通り、ナミギセルとハコネギセルの形は一見してほとんど同じだ(図2A)。だけれども、「見るところ」が分かってしまえば見分けることが容易となる。
まず、殻口の右下の出っ張りが出ない(図2B)のがハコネギセルである。 さらに、上板と下板(矢印)がナミギセルは非常に近く、逆にハコネギセルはそれらが離れて配置されている、という違いがある。
また、殻の内部構造のプリカと呼ばれるところ(図2C、矢印)が種によって違うことが多く、強い光に透かしてそれを見てしまえばかなりの精度で種を同定することができるようになる。若い成貝の殻は透き通っているので観察しやすいが、殻が老成して白いガサガサの状態になってしまうと、光で透かしてもプリカが見えないこともある。そういう時は、殻を水で濡らすとプリカが見えるようになる。紙やすりで殻を少し削って薄くして、光の透過を良くしてもOKだ。
このように、キセルガイの仲間は殻口のところに歯やプリカがあって、その形で種を判別できることが多い。それでは、Euhadra属の仲間をはじめとした、殻が似たり寄ったりのいわゆるデンデンムシタイプの陸貝はどうだろう? キセルガイのように各種に突出した特徴があれば、見ただけで種判別できることもあるけれど、デンデンムシの殻だけで種同定することは実際に難しい。ではどうやって、種を見分けるのか? それ以前に、これまで科学者たちによってデンデンムシが沢山の種に分類されてきたわけだけど、そもそも何を根拠にその種を定義してきたのか?

「種」とは何か
種の定義には、学説や分類群によっていろいろあるけれど、ことに分類学者が種の定義をする際には「他の種とはどこのどんなパーツの形が違います」という大前提がなければいけない。最近は遺伝子の塩基配列の特徴的な配列が種の特徴になってしまうこともあるけれど、基本的には形が違って種が違うという認識で(しばらくは)大丈夫だろう。
さて、デンデンムシはどこの形が違うのだろう?種ごとの殻の微妙な違いを頼りに種を分けるケースがないわけではないが、もっと大事なのは軟体部、特に生殖器の形の違いで種を見分けることができるのだ。この陸貝の肉の中身の話は、次回の話題で取り上げるとしよう。

毛が少なくなってまるで別もの

図3. サイシュウケマイマイ。Aが毛のある個体で、Bが毛の取れてしまった個体だ。

ここでは、上の写真の毛の生えたカタツムリを見てみよう(図3)。この毛はカタツムリの殻の皮(殻皮という)の一部がのびたもので、なぜこの毛が殻から生えているのか理由ははっきりわかっていない。一説によると、捕食者から見た目を大きくして逃れるためだとか、毛に汚れをつけてカモフラージュするためだとか言われている。
右の殻(図3B)は、この貝の毛が落ちたバージョンだ。敵に襲われて抜けたとかではなく、ただ時間がたって自然に取れてしまったのだけど、それだけであたかも別の種に見えてしまう。人と同様、カタツムリを外見で判断するのはむつかしそうだ。

擬態
見た目の話題でもうひとつ、擬態について述べておこう。カタツムリの中には木に登る性質のある種類があるけれど、その中に緑のものがある(図4A)。これは、緑の葉っぱに擬態することで鳥などの捕食者に見つかって食べられることを回避している・・・と解釈される。緑のカタツムリは日本には1種だけいるが、これは緑色の肉が透明の殻に透けて見えているだけで、殻が緑なわけではない(図4B)。
また、カタツムリの中には赤や黄色の殻を持つ種類もいる。いったいこれらの色にはどういう意味があるのだろうか? 深海にすむ生き物には赤い色をしたものが多く、これは深海に差し込む青い光条件の中では周りから見えにくいのだという。しかし、カタツムリの生息環境には全くあてはまらない。カタツムリの外見の謎は深まるばかりだ。

図4.緑色のカタツムリ。A:パプアニューギニアに生息するミドリパプアマイマイ。この種は殻が緑色。B:沖縄に生息するアオミオカタニシ。これは肉が緑色で、殻は透明だ。カタツムリの殻をコレクションするときには肉は取っておかないし、仮にアルコールやホルマリンに肉をつけてとっておくとしても、長い保存期間のうちにやがて色は失われてしまうだろう。

最後に日本のカタツムリに立ち戻ろう。日本のデンデンムシのベースは暗い茶色で、殻に1本から4本の細い黒い筋がある。この色と模様は一見すると地味かもしれないが、デンデンムシが夜や薄暗い林床で、地面の上を歩くときや、落ち葉層の中にまぎれたときに、周りから見つかりにくくなるわけだ(図5)。これも立派な擬態のひとつといえる。
キセルガイをはじめとした、他の日本のカタツムリの多くも茶色いが、これらも同様に落ち葉などにまぎれて見つかりにくくなるためであろう。日本のカタツムリは茶色くて地味といわれるが、これは間違いなく彼ら(彼女ら?)のスゴい生存戦略なのだ。やっぱり、カタツムリの良しあしは、外見だけで判断しちゃいけないんだな。

図5.暗がりにまぎれて出歩くシュリマイマイ。色が暗いのでなかなか目立たない。

つづく

【バックナンバー】
序章 魅せられて10年
1話 陸貝を愛でるために知っておきたいこと
2話 カタツムリの殻をボンドで補修する話
3話 貝と似て非なるもの
4話 カタツムリはどこにいる?
5話 ナメクジを飼ってその美しさに気がついた
6話 幸せの黄色いナメクジ
7話 オカモノアラガイはカタツムリ
8話 カタツムリの上手な見つけ方
9話 貝屋の見る夢
10話 初採集のトキメキはいま
11話 ピンとくる貝
12話 ナメクジはなぜ嫌われるのか
13話 陸貝採集 -道具のすヽめ
14話 カタツムリの標本づくり
15話 カタツムリの足跡は点線になる?

*もっと詳しく知りたい人に最適の本
脇 司著
『カタツムリ・ナメクジの愛し方
日本の陸貝図鑑』(ベレ出版)


本連載の一部を所収、
図鑑要素を加えた入門書です。