SNAIL

 

職業柄、カタツムリやナメクジを加熱することがある。

熱した個体から立ちのぼるのは、浜焼きのすごくいい香り。

そのとき僕は「彼らは間違いなく貝だ」と実感する。

寄生虫を研究している僕なりに、好きな陸貝の話をしてみたい。

誰にとってもたのしい陸貝入門になるのかどうかはわからないけれど。



著者プロフィール
脇 司(わき・つかさ)

1983年生まれ。2014年東京大学農学生命研究科修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、済州大学校博士研究員、2015年公益財団法人目黒寄生虫館研究員を経て、2019年から東邦大学理学部生命圏環境科学科講師。貝類の寄生生物を研究中。フィールドで見つけた貝をコレクションしている。著書に『カタツムリ・ナメクジの愛し方』(ベレ出版)がある。

 

寄生虫を研究している僕が
カタツムリとナメクジについて
語りたいときに語ること

第13話

陸貝採集 -道具のすゝめ-

 文と写真 脇 司


ワンランク上の陸貝ライフ

旅行中や出張中に、ふらっと陸貝を採りたくなることがある。そんな時には、陸貝が居そうな場所に行って、手ごろな木の枝を拾って落ち葉をかき分ける。陸貝が採れたら、コンビニでもらってきた袋に入れて持ち帰る。こんな風に、気軽に採集を楽しむことができるのは陸貝採集の魅力のひとつ。
でも、事前にちょっとした道具を用意しておくだけで、採集がもっと楽しくなる。道具をそろえて、快適な陸貝採集ライフを送ろう。

用意するもの

①掘るもの
例)熊手、磯金(いそがね)、軍手など

落ち葉をかき分けるものは熊手、スコップなど何でもよい。ベテランになると、得意な得物が人によって違ってくる。僕が愛用しているのは磯金という漁具で、これは本来アワビを採るのに使うものだ。磯金は、丸太をひっかけて動かしたり、朽ち木を砕いたりするときに便利なので、僕はこれを重宝している。
木の根元やススキ原の根元を探すときは、道具を使うよりも手で優しく落ち葉をかき分けると陸貝を見つけやすい。地面には木の棘、尖った石、時にはガラスの破片が落ちていることがあるので、手で探すときは軍手を使ったほうが良い。


②採るもの
軍手、割りばし(ピンセット)

大き目の陸貝なら手(軍手着用)で十分採れるけど、木のうろなどの狭いところに入り込んだものや、小さなものを採るときには割りばしやピンセットがおすすめだ。

ナメクジは素手でさわるとべとべとするので、これは割りばしで捕まえた方が良い。べとべとになった割りばしは捨てられるのでその点でも便利。


②入れるもの
タッパー、スーパーの袋、ピルケース

陸貝が取れたらタッパーに入れて持ち帰る。陸貝がころころ転がって殻が割れないように、タッパーの中には落ち葉を一緒に入れておく。1日程度の持ち運びなら、空気穴を開けなくて大丈夫。スーパーのビニール袋も陸貝の持ち運びに使えるが、中の陸貝がつぶれないように気を付けよう。
小さめの陸貝を持ち運ぶにはピルケースが便利だ。写真のように、蓋が1つひとつ部屋ごとに開くタイプがよくて、種類や採集場所ごとに分けて運ぶことができる。温度が上がると入れ物の中が蒸れて、陸貝が弱るので注意しよう。
夏場の陸貝の車内放置は絶対に駄目なので、車から離れなければならないときは常に持ち歩くか、車外の日陰になる場所に置いておく。
ちなみに写真のピルケースは100均で買ったものだ。僕の経験上、100均のピルケースは型落ちまでの期間が短くて、陸貝採集に便利なものも、いつの間にか店頭で見かけなくなって、次に店に並んだ新型はいまいち使い勝手が悪い・・・となることがある。良いピルケースとの出会いは一期一会なので、これは! と思うものがあったらその店のものを全て買い占めるくらいの気持ちが必要かもしれない。

つづく

【バックナンバー】
序章 魅せられて10年
1話 陸貝を愛でるために知っておきたいこと
2話 カタツムリの殻をボンドで補修する話
3話 貝と似て非なるもの
4話 カタツムリはどこにいる?
5話 ナメクジを飼ってその美しさに気がついた
6話 幸せの黄色いナメクジ
7話 オカモノアラガイはカタツムリ
8話 カタツムリの上手な見つけ方
9話 貝屋の見る夢
10話 初採集のトキメキはいま
11話 ピンとくる貝
12話 ナメクジはなぜ嫌われるのか

*もっと詳しく知りたい人に最適の本
脇 司著
『カタツムリ・ナメクジの愛し方
日本の陸貝図鑑』(ベレ出版)


本連載の一部を所収、
図鑑要素を加えた入門書です。