職業柄、カタツムリやナメクジを加熱することがある。
熱した個体から立ちのぼるのは、浜焼きのすごくいい香り。
そのとき僕は「彼らは間違いなく貝だ」と実感する。
寄生虫を研究している僕なりに、好きな陸貝の話をしてみたい。
誰にとってもたのしい陸貝入門になるのかどうかはわからないけれど。
著者プロフィール
脇 司(わき・つかさ)
1983年生まれ。2014年東京大学農学生命研究科修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、済州大学校博士研究員、2015年公益財団法人目黒寄生虫館研究員を経て、2019年から東邦大学理学部生命圏環境科学科講師。貝類の寄生生物を研究中。フィールドで見つけた貝をコレクションしている。著書に『カタツムリ・ナメクジの愛し方』(ベレ出版)がある。
第9話
ときどき、貝を採る夢を見る。夢って目が覚めたらすぐに忘れてしまうものだけど、比較的覚えている夢があるので紹介したい。夢なのでオチも脈絡もなく話が進んでいくけど、こういう夢は、貝屋以外はたぶん見ないだろうから珍しいんじゃないかな。
<夢>その1 山の中でカタツムリを拾う夢
かなり大きな島で、広さは淡路島くらいだったと思う。島の一角に、人が掘ったような赤土むき出しの洞窟があって、そこをくぐると海が見える高台に出ることができた。その高台からは海が臨めるけど、海までは崖になっていて海岸までは降りられなかった。さらにそこから道なりに進むと、もうひとつ同じような洞窟があって、それを抜けてようやく海岸に出ることができた。そこには海の貝が結構落ちていた。僕は夢の中で嬉々として拾った。どれも死殻だったけど、かなり大型の巻貝(20 cmくらい。海の貝で、このくらいのサイズの個体を自分で採るのは結構良いこと)だったので嬉しかった。まだ採集したことのない種類の貝でもあり、「コレクションリストに新しい種類が増える」と興奮した。
洞窟を抜けて見た海の景色はこんな感じだった。
海で採れた貝に似た「ニクイロヒタチオビ」。
<夢>その3 リゾート地に来た夢
リゾート地で、海岸近くのホテルに泊まっていた。そこの海は、なぜか潮の満ち引きが速くて、数分周期で満ちたり引いたりが繰り返されていた。海底には、前の夢と同じような20 cmくらいの大型の巻貝がたくさん落ちていた。その貝を拾うためには、潮が引いて海底が水から上がる僅かな時間に、陸地から貝のところまで海底を走って移動するしかなかった。夢の中の僕は、潮が引くと同時に干上がった海底を走り回って貝を拾って、潮が満ち始めるタイミングで陸まで走って退避した。できるだけたくさんの貝殻を拾うために、潮の満ち引きのタイミングに合わせて浜辺と海底を走って往復した。
<夢>その4 雨の日にナメクジを採る夢雨の日にちょっと古い建物の中にいた。雨、止まないなあ・・・と思いつつ、ふと窓を見ると、ガラスにナメクジがついていた。見たことのない変わったナメクジだったので、日本初報告だ!と息巻いてタッパーに採った。その窓を開けて建物の外壁を見てみると、窓周辺の外壁にも同じナメクジがたくさんついていた。こちらも手を伸ばして採った。ナメクジだけじゃなく、ウスカワマイマイみたいなカタツムリがいた。「たぶん普通種だけど、あとで寄生虫を調べよう」と思ってこれも採集した。
朝、目が覚めて……
いい夢ばかりではなく、生物採集禁止の場所でカタツムリを採集して、あとで罪悪感にかられる夢も見た。ただ、どの夢でも貝を採っているときはかなり楽しく、コレクションが増える充実感も相まってかなり熱心に行動している。だから、たくさん貝が採れて興奮が最高潮に達したときに目が覚めることが多い。
夢から覚めると、「ああ、夢か……」とすべてが徒労に終わったような気持ちになる。海の貝を拾う夢を案外みているもので、きれいでかっこいい海の貝も僕はなかなか好きなようだ。あと、夢の中で陸貝を採るときは、僕はいつもタッパーを使っているようだ。
【バックナンバー】
序章 魅せられて10年
1話 陸貝を愛でるために知っておきたいこと
2話 カタツムリの殻をボンドで補修する話
3話 貝と似て非なるもの
4話 カタツムリはどこにいる?
5話 ナメクジを飼ってその美しさに気がついた
6話 幸せの黄色いナメクジ
7話 オカモノアラガイはカタツムリ
8話 カタツムリの上手な見つけ方