職業柄、カタツムリやナメクジを加熱することがある。
熱した個体から立ちのぼるのは、浜焼きのすごくいい香り。
そのとき僕は「彼らは間違いなく貝だ」と実感する。
寄生虫を研究している僕なりに、好きな陸貝の話をしてみたい。
誰にとってもたのしい陸貝入門になるのかどうかはわからないけれど。
著者プロフィール
脇 司(わき・つかさ)
1983年生まれ。2014年東京大学農学生命研究科修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、済州大学校博士研究員、公益財団法人目黒寄生虫館研究員を経て、2019年から東邦大学理学部生命圏環境科学科講師。貝類の寄生生物を研究中。フィールドで見つけた貝をコレクションしている。著書に『カタツムリ・ナメクジの愛し方』(ベレ出版)がある。
序章
殻の美しさから貝の収集に目覚め、10年あまり。突き詰めていくうちに「陸貝」にたどり着いた。陸貝とは、カタツムリ、ナメクジ、その他諸々、実は私たちの生活の身近にいる貝たちのこと。この連載では、そんな陸貝の魅力を紹介したい。
とはいえ、いきなり「カタツムリやナメクジは貝である」と言われても、ピンと来ない方がほとんどだろう。殻のあるカタツムリは百歩譲って貝に見えるかもしれないが、ナメクジはそもそも貝らしくないから仕方がない。僕自身、ちょっと前までナメクジはコレクションしていなかったくらいだ。
本連載では、まず、陸貝とは何者なのか、どこで何をして生きているのか紹介したい。陸貝は決して目立つところにはいないが、私たちの身近にある花壇や街路樹の根元でも生きている。そして、雨が降ると私たちの目の前に出てくるのはご存知のとおり。