地球上に残された"人類未踏の地"はあるけれど、
潜水艇も宇宙船も使わずカラダひとつで行けるのは地底だけ。
暗くて狭くて寒そうな地底への入口といえば洞窟だ。
国内外1000超の知られざる洞窟に潜ってきた洞窟探検家による、
逆説的サバイバル紀行"洞窟で遭難する方法、教えます"。
著者プロフィール
吉田勝次(よしだ かつじ)
1966年、大阪生まれ。国内外1000超の洞窟を探検・調査してきた日本を代表する洞窟探検家。(社)日本ケイビング連盟会長。洞窟のプロガイドとして、TV撮影のガイドサポート、学術探査、研究機関からのサンプリング依頼、各種レスキューなど幅広く活動。THE NATIONAL SPELEOLOGICAL SOCIETY(米国洞窟協会会員)。(有)勝建代表取締役。同社内の探検ガイド事業部「地球探検社」主宰。ほか探検チームJ.E.T (Japan Exploration Team) と洞窟探検プロガイドチーム「チャオ」の代表。個人ブログ「洞窟探検家・吉田勝次の足跡!」では日々の暮らしから最近の海外遠征まで吉田節で綴る(動画あり)。甘いものに目がない。
世界中でおいしいものを食べたい人は、食材に恵まれた土地を探したり、評判のお店を調べて、そこをめざす。同じように、洞窟に入りたい人は、最初は洞窟がある場所を調べて、現地へ赴く。しかし洞窟を探検する僕は「洞窟があるという情報のないエリア」ほど行く気になる。
ネット上で洞窟の情報がたくさん出ている場合、その土地の洞窟調査はかなり進んでいる証なので、探検にはなりにくい。情報のない土地ほど未調査の洞窟がある可能性が高く、探検に向いている。
情報がないのにどうやって洞窟を見つけるの? と思うだろう。最低限必要な情報である、地質と地形の2つを調べて当たりをつけるのだ。
活用するのは、インターネットのグーグルアース。まずはパソコンの画面とにらめっこ! 洞窟がありそうな地形を見つけて地質図と照らし合わせて場所を特定する。規模的に大きく、距離も長く、鍾乳石が発達している洞窟のほとんどは、石灰岩が雨水などに溶かされてできた「石灰洞」だ。
石灰洞の場所を見つけるために、次に地質図を机の上に広げ、石灰岩の分布を調べる。さらに石灰岩がつくる地形の候補の中から、地底に洞窟がありそうな場所を探すのだ。どんな地形がよいかというと、洞窟用語で「ドリーネ」と呼ばれている、すり鉢状の地形が理想的。ドリーネは、雨水を漏斗のように集めて洞窟の中に水を流し込む。
また、地図上で目をつけるのは、唐突に川がなくなっていて地下に水が流れ込んでいたり、逆に地下から川が流れ出ている場所。とくに断崖絶壁から突然、川が始まっている場所はかなり有望だ。
地形図と地図上で候補地が絞ったあとは現地に下調べに行く。現地で得る情報に優るものはない。グーグルアースはもちろん、地形図でも見えない小さな入口もかなり有望な場所があるから現地調査は外せない。
洞窟探検に適した穴探しは、地道に探すしかない。現地の人々からの聞き取り調査をして、詳しい人を紹介してもらう。その人に案内してもらってジャングルや山の中へ探しに行くのだ。
洞窟を見つけたいという思いをたずさえて、現地の人との縁をつなぎ、運がよければ最終的に洞窟にたどり着く。いくら情熱があっても、地域によっては人との縁も望めそうにないこともある。そんなときは、空港の出口を出て投げた靴の先が向いた方向に歩き出したことも。
言語がわからなければ、現地の日本語学校を目指す。見当たらなければツアー会社へ。
いずれにしても、いっしょに山に登ってくれそうな通訳兼ガイドを紹介してもらうが第一。次に車とドライバー探し。山間部や辺境の地は少数民族が住む村であることが多く、その土地の言葉を話す。なので、ドライバーや通訳がそのエリア出身の人ならラッキー。通訳、ドライバー、少数民族の通訳、これを一人で全部できばコスト的にも助かる。言語がわからないときは、現地の通訳を通して衣食住のすべてのことを決めなくてはならない。
首尾よく通訳と運転手が手配できたら目星をつけた山へ向かう。ところが、現地の人に案内されて山を3時間登り、ようやく探し当てた洞窟に入ってみたら、たった5メートルで行き止まりだったこともあった。スリランカでは、洞窟の中に仏像がびっしり置いてあったり、ミャンマーでは麻薬をやめるためにお坊さんになった人が洞窟に住み着いていたりといったことも。
一筋縄ではいかないのが洞窟探検だけれど、風が吹き出していたり、吸い込んでいたり、水が湧いていたり、流れ込んでいたりしているような有望な穴をひたすら探す。なぜなら、その入口の奥に空間があることを示唆しているから。たとえその入口が小さくて人が入れない状況でも、岩をどかしたり、まわりの土を掘ったりして、何とか人が一人入れるようにする。
こうして調査すべき洞窟の入口が見つかれば、そこからが洞窟探検のスタート。なのだが、先ほどご紹介した“失敗談”のようなことはよくあるので、入口の探査のみで1回の遠征が終わってしまうこともある。
これまでに国内で規模の大きな洞窟を運よく発見することができた。三重県では、15年間、探検を続けて測量した結果、総延長2000メートル、深さが200メートルを超える「霧穴」を発見した。日本ランキング6位とされているけれど、これは暫定で、調査を続けるほどにさらに大きなスケールであることが明らかになるのは確実。洞窟の規模は探検をしながら長い時間をかけて測量をして初めて全容がわかるもの。それまでに何十年もかかることは珍しくない。
一方、海外にはまだ発見されていない巨大洞窟が多く残っていると思われる。なぜなら、これから挙げる“すごい洞窟”はどれも近年発見されているから。
*もっと「洞窟探検」を知りたい人に最適の本:
吉田勝次著『素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書) 』。 本書は当連載を大幅に加筆修正して、新たにイラストレーションを掲載して一冊にまとめたものです。
挿絵:黒沼真由美
対談:五十嵐ジャンヌ
吉田勝次著『洞窟探検家 CAVE EXPLORER』(風濤社)。話題の洞窟王が切り撮った、悠久の時と光がつくる神秘。大自然が生み出した総天然色の魔法! 大判写真集
【バックナンバー】
第1話 怖がりの洞窟探検家
第2話 すごい洞窟の見つけ方
第3話 ある遭難しかけた者の物語 その1
第4話 ある遭難しかけた者の物語 その2
第5話 三重県「霧穴」探検 その1
第6話 三重県「霧穴」探検 その2
*もっと「洞窟探検」を知りたい人に最適の本:
吉田勝次著『素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書) 』。 本書は当連載を大幅に加筆修正して、新たにイラストレーションを掲載して一冊にまとめたものです。
挿絵:黒沼真由美
対談:五十嵐ジャンヌ
大型写真集、吉田勝次著『洞窟探検家 CAVE EXPLORER』(風濤社)。話題の洞窟王が切り撮った、悠久の時と光がつくる神秘。大自然が生み出した総天然色の魔法!