EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員を経て、2008年から京都大学大学院工学研究科准教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第13話

火山噴火予知は可能か?(1)

文と絵 後藤忠徳

2014年9月27日、長野県と岐阜県の県境に位置する活火山「御嶽山」が突如噴火しました。噴石が直撃するなどして57名の方々が亡くなられ、未だ6名(あるいはそれ以上)の方々の行方が分かっていません(2014年10月27日現在)。戦後最悪の火山災害となりましたが、事前の警報や警告は出されてはいませんでした。今回の火山噴火はなぜ予知できなかったのでしょう? また今後、可能になるのでしょうか? 今回から数話に渡って、火山噴火予知の現状と課題に迫ってみたいと思います。

図1. 御嶽山登山者による投稿動画より(https://www.youtube.com/watch?v=7Ea3uED1Zgc)。 九合目避難小屋の少し上から撮影開始された。

◎火山噴火予知の現状

噴火翌日の9月28日、火山噴火予知連絡会(国の機関、事務局は気象庁)の藤井敏嗣会長は「いまの科学技術は、完全に安全だとか、完全に危険だとか、必ず噴火にいたるということまで断定するレベルにない」と語りました。これを受けてマスコミは「地震も火山噴火も予知などできない」と報じましたが、違和感を覚えた市民は少なくなかったでしょう。
“科学者たちは火山噴火予知の研究をしたり、火山活動の議論をしてるんでしょ?”
“なんで噴火予知はできないっていうの? だったら研究予算を返してよ”
「予知の看板に偽りあり」と言われても仕方がないですね。 藤井会長(東京大学名誉教授)は実際には「噴火予知はできない」とは言ってはいませんが、「予知に過剰に期待しないでほしい」と語っています。発言の真意はどこにあったのか? ご本人に伺わなければ分かりませんが、私は自然災害に対する「想定」というワードが今回の発言の一因ではないかと感じています。
本連載第10話では「想定外と想像内」をテーマに、なぜ「想定外」の超巨大地震(2011年東北地方太平洋沖地震)が起きた背景を考えました。科学者たちは起きうる事態を想像はしたけれども、注意喚起や対策検討(災害の想定)を十分にはしてはいませんでした。
2011年以降、科学者たちはこのような「想定外」を減らす努力を続けています。地球を詳しく観察し、自然災害を定量化・モデル化することで、被害をできるだけ減らそうとする研究の歩みは止まってはいません。
一方で2011年以降、災害の想定を見直すケースが増えています。活断層の「定義」の見直しはその一例です。活断層とは、過去数十万年以内に繰り返してずれ動いたことがあり、再びずれ動く可能性の高い断層を指しています(注1)第2話でご紹介したとおり、断層がずれると地震が起きますから、活断層には要注意。特に原子力発電所のような重要な建物が活断層のすぐ近くに建っていれば、のちのち重大な事故に至る可能性があります。

図2. 断層がずれ動くときに地震が発生します。
それにしても活断層と単なる断層(古い地層や岩盤の食い違い)の科学的区別はずいぶんと曖昧ですね。詳しくはまた稿を改めて解説いたしますが、例えば特定の地形や地層が断層によりずれたり曲がったりしていれば、活断層がいつ頃からずれ続けているのかを詳しく調べることができます。しかし、そのような都合のいい地形や地層がない場合は多々あります。いつ動いたかハッキリした証拠がないけれども、過去数十万年のあいだにずれ動いた“らしい”断層も活断層と呼ぶことにしているのです。
これでは実際に活断層の安全性を議論する際に不便です。そこで国の原子力規制委員会は「約12万~13万年以内に活動した断層」を危険な活断層としていました。同委員会は、この活断層の定義に従って原子力発電所の安全審査を進めていましたが、2013年1月に定義を見直します。「40万年以内に活動したと思われる断層」も危険な活断層とする案を作成したのです(注2)。原子力発電所は安全な環境でなければ動かすことはできません。注意するに越したことはありません。
別の例を見てみましょう。ここに興味深いグラフがあります。1900年以降に発生した地震の規模の大きなもののうち、上位10位をグラフ化したものです(図3)。マグニチュード(M)8を超える巨大地震・超巨大地震が起きる時期は1900~1910年、1950~1970年、2004年以降に集中していて、およそ50年周期で地震の活発期が巡ってくるように見えます。なぜ50年周期なのか? その理由は分かっていませんが、現在世界は超巨大地震の活発な時期に突入したのだ、と考える科学者もいます。

図3. 1900年以降に発生した地震のうち、規模の大きなもの上位10個(本連載第2回目の表1)をグラフ化。横軸:地震の発生時期、縦軸:マグニチュード(Mw)。超巨大地震の活発期があることが分かる。

しかも今後発生する地震の規模はM8やM9とは限りません。2012年11月、ある地震学者によって驚くべき発表がなされました。2011年の東北地方太平洋沖地震(M9)の30倍以上のエネルギーを持つ、M10の超巨大地震の発生の可能性が指摘されたのです(図4)。地震の断層は全長約8,800km。日本の南から始まり、千島列島、カムチャッカ半島を越えて、アラスカまで至る大断層が一気に動くとM10の超巨大地震になるそうです。想像を上回る規模の地震ですが、注意するに越したことはありません。

図4.NHKニュースより(世界最大級の地震はM10前後、2012年11月22日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121122/t10013674861000.html
火山については、巨大噴火も話題になりました。巨大噴火の発生確率は今後100年に1%だそうで(注3)、仮に九州中部で超巨大噴火が発生すると、日本列島のほぼ全土が火山灰で覆われて、1億人以上の生活が麻痺するそうです。この時、数10万~数100万人の犠牲者が発生するとも言われています。これは大変です。やはり注意するに越したことはありません……といってもどうすればよいのでしょうね。

◎科学者の胸の内

これらの例はいずれも、地震や火山による災害を未然に防ぐために、従来の災害想定を見直したものです。東日本大震災が起きるまで、東北沖合でM9の地震が起きるとは想定されていませんでした。少ない発生確率だから起きっこないと決めてかからずに、さまざまな災害に備えておく必要がある、これは東日本大震災が残した教訓です。
しかし(これは私の考え過ぎかもしれませんが)科学者のあいだでは近年、自然災害に対する「想定の範囲」がどんどん広がっているように感じます。想定の範囲を広げれば、「想定外」を減らすことはできるでしょう。警鐘を鳴らさないよりは鳴らすほうがずっといい、そう思う科学者も多いと思われます。また防災対策を実行するのは国や自治体だから、科学者は警鐘を鳴らすことに一生懸命になればよい、そのような傾向も感じられます。
その一方、地震・火山噴火の予知に対しては、科学者は年々消極的になっています。予知の精度が万全でない限りは「災害には常に注意してほしい」と言うべきであって、その方があらゆる災害ケースについて備えることになるのではないか? と考える科学者が増えているようなのです。想定外を減らそうとする科学者マインドは、市民から考えると逆の行動を誘発しているかもしれません。

◎被害を減らす努力を

「災害への警鐘をどんどん鳴らして、常に注意を促すのはよいこと。どこが悪いの?」と感じる読者の方もおられるでしょう。2011年以降、災害に対する国民の関心は高く、より安全・安心な生活を求める傾向にあります。災害に対する知識や情報については、個人や自治体が知っておくことは重要です。自分自身の身を守ることにつながりますので是非進めるべきです。
しかし完全なる安全・安心には無限のコストがつきまといます。地震・津波に備えるために防波堤を作ったり、建物を建物を堅牢にすれば、もちろん多額のお金がかかります。すべての活火山は危ないからと入山禁止にすることは可能ですが、地域の経済活動は阻害されるでしょう。原子力発電所を使わないのであれば、新たなエネルギー源確保に費用を投じなければなりません。「注意するに越したことはない」と言いますが、注意するだけでは災害を想定内にしたことにはなりませんし、「備えあれば憂いなし」と言いますが、備えそのものが「憂い」になってしまっては本末転倒です。

図5. . いわゆる「普通」のオオカミ(奥)と、有袋類のフクロオオカミ(手前)。どのような「オオカミ」がやってくるかを未然に適正に知ることはできるのか?(スミソニアン博物館:科学バー「僕たちの祖先をめぐる15億年の旅」第11話より)。 http://kagakubar.com/mandala/mandala11.html

有名なイソップ寓話のひとつ、「狼と羊飼い」も思い出されます。「狼が来るぞ!」と少年は言い続けますが、狼はちっとも来ません。そのうち、本当に狼が来ますが、少年の言うことを村の人は信用しなかったので、羊は狼に食べられてしまいました。巨大災害への過剰な警鐘は、本当の災害発生時にどう受け止められるでしょうか?
いま必要なことは、科学的かつ適正な災害予測と、実行可能な防災対策のバランスを取りつつ、被害を減らす努力をすることでしょう。冒頭で紹介しました藤井火山噴火予知連絡会会長も、会見で「(火山では種々の)異常があって次にどういうことが考えられるかをもう少し丁寧な情報として発信する」のが有用だと語っています。
では、現在の科学技術では、火山のどんな異常を検出できているのか? それは噴火予知にどう結びつくのか? どのような予知情報をだせば市民に役立つのか? また超巨大火山噴火とはどのような現象なのか? 次回以降で迫っていきたいと思います。


注1:中田高, 活断層研究の将来について, 活断層研究, 28, 23-29, 2008.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/afr1985/2008/28/2008_23/

ただし「新編日本の活断層」(活断層研究会編)では、約200万年前以降にずれ動いた断層を活断層と定義しています。


注2:注2:規制委が地震・津波の安全基準骨子案、活断層の年代範囲を拡大, ロイター, 2013年 1月 29日.
http://jp.reuters.com/article/domesticJPNews/idJPTYE90S06020130129


注3:巨大噴火、今後100年に1% 「超巨大」なら列島まひ
(神戸新聞、2014年10月22日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141022-00000009-kobenext-soci

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)
第8話 想定外と想像内の狭間で(2)
第9話 想定外と想像内の狭間で(3)
第10話 想定外と想像内の狭間で(4)
第11話 地中の埋蔵金の探し方(2)
第12話 地中の埋蔵金の探し方(3)