EARTH

 

あなたは、巨大地震が来ると思っていますか?

来ると思う人は、備えができていますか?

来ないと思う人は、その根拠がありますか?

地球の内部って、思ったより複雑なんだけど、

思ったよりも規則性があると私は考えているんですよ。



著者プロフィール
後藤忠徳(ごとう ただのり)

大阪生まれ、京都育ち。奈良学園を卒業後、神戸大学理学部地球惑星科学科入学。学生時代に個性的な先生・先輩たちの毒気に当てられて(?)研究に目覚める。同大学院修士課程修了後、京都大学大学院博士後期課程単位取得退学。博士(理学)。横須賀の海洋科学技術センター(JAMSTEC)の研究員、京都大学大学院工学研究科准教授を経て、2019年から兵庫県立大学大学院生命理学研究科教授。光の届かない地下を電磁気を使って照らしだし、海底下の巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガスなどの海底資源の新しい探査法の確立をめざして奮闘中。著書に『海の授業』(幻冬舎)、『地底の科学』(ベレ出版)がある。個人ブログ「海の研究者」は、地球やエネルギーにまつわる話題を扱い評判に。趣味は、バイクとお酒(!)と美術鑑賞。

 

知識ゼロから学ぶ

地底のふしぎ

 

第12話

地中の埋蔵金の探し方(3)

文と絵 後藤忠徳

前回は海外の遺跡調査のお話でした。今回は国内での遺跡調査の様子を見てみましょう。日本の古代の遺跡といえば、すぐに思いつくのは古墳ですね。当時の王様や貴族のお墓で、紀元後400~800年頃に造られたと考えられています。しかし埋葬されたのは誰なのか? 宝物が一緒に埋まってないか? など、ミステリーがいっぱい。
そんな古墳からは毎年のように新しい発見がされていますが、2014年8月にも大きなニュースが世間を賑わしました。奈良県明日香村にある都塚(みやこづか)古墳での発掘作業の結果、この古墳が一辺40m以上の階段ピラミッド型だったことが分かったのです(注1)。都塚古墳は観光地としても有名な奈良の石舞台古墳のすぐ隣に位置しています。独特な形といい、立地といい、相当の「有名人」が埋葬されたに違いありません。

図1. 奈良県明日香村にある都塚古墳(http://ja.wikipedia.org/wiki/都塚古墳より)。一見、何の変哲もない小さな古墳に見えるが、実は巨大な階段ピラミッド型古墳だった!

この階段ピラミッドとはどんな形でしょうか? 代表的なものがエジプトのサッカラという場所に残されています(図2)。通常のピラミッドは「三角錐(すい)」と言って、側面はなだらか(あるいは急な)斜面になっていますが、サッカラのピラミッドの側面は大きな階段状になっています。図2の階段ピラミッドは土台の幅が約125m・高さは約60mですので、都塚古墳の大きさはこの3分の1くらいかと思われます。

図2. サッカラにある階段ピラミッド。著者撮影(2010年)。修理用の足場がみえる。

ちなみにエジプトにはピラミッドがたくさんあります。たとえばサッカラの階段ピラミッドのすぐ南側では、周辺の遺跡の発掘作業が現在も続いていますが、発掘現場の向こう側には丘のような盛り上がりがたくさん見られます(図3)。これ、よーくみると全部ピラミッドです。ぱっと数えても10個以上。ピラミッドは王様などのお墓であるとともに、当時の権力の象徴でしたから、大小さまざまなピラミッドが多数あることは当然のことでしょう(日本の古墳も同じで、奈良県・京都府の県境付近には沢山あります)。

図3. サッカラの階段ピラミッドから南を望む。発掘中の遺跡の向こうにたくさんのピラミッドが見える。著者撮影(2010年)。

◎姿を消したピラミッドの見つけ方

砂の上に顔を出しているピラミッドがあるのですから、砂に埋もれかけ、あるいは埋もれてしまったピラミッドもたくさんありそうです。実際、2011年5月に米アラバマ大学などの研究チームが、未知のピラミッド17個を含む多数の遺跡らしきものを発見しました(注2)
彼女たち(発見した研究者は女性です)はどうやって砂に埋もれたピラミッドを見つけたのでしょうか? エジプトの砂漠を歩きまわって探したの? まさか! 彼らは人工衛星を用いて未知のピラミッド探しあてたのです。使用したのは人工衛星に搭載されている赤外線センサー。直径1m程度の細かさ(解像度)で広い範囲の地表の様子を調査できます。しかし赤外線は地表で跳ね返されてしまい、地中には届かないので地下の様子はわからないはず……
「どうやって砂に埋もれたピラミッドを見つけたの?」(リピート)
彼女たちは、湿り気の多い土は近赤外線を吸収しやすく、湿り気の少ない土は跳ね返すという性質に注目しました。都合のよいことに、エジプトの遺跡に使われていた日干しレンガ(土や粘土から作ります)は水を吸いやすい性質を持っていました。遺跡が砂に埋もれてしまっても、日干しレンガは周囲の砂よりも湿り気を含んでいるため、その真上に覆いかぶさっている土や地表も「やや湿った」状態を保っているのです。
赤外線センサーによる画像を解析し、地表の湿り気の多い地域・少ない地域を地図にしてみると……何もない砂漠の中に、建物や道のような模様が見えてくるではないですか! 彼女たちは、こうして古代の都市やピラミッドが埋もれている思われる箇所を特定したのです。その一部では発掘作業も行われており、遺跡の存在が確かめられています。

図4. サッカラの陽気なロバ使い。観光客相手に記念撮影をするお仕事。お客さんがいなくなると、遺跡の木陰で読書をしていた。このサッカラ地域でも、人工衛星により新たなピラミッドが見つかった。

アメリカだけでなく、他の国の研究チームも人工衛星を用いた遺跡探しに挑戦しています。たとえば日本の研究チームは、赤外線だけでなくマイクロ波(光というか電波ですね)も用いています。マイクロ波は赤外線とは異なって地中にも届く性質を持ち、石や陶器は砂よりもマイクロ波をよく反射する性質を持っています。これらの性質を組み合わせて、地中数十cmに埋もれた石材や陶器を直接見つける試みが実施され、実際にエジプトでの遺跡発見に成功しています。このように、人工衛星を用いた遺跡調査が最近は盛んで、「宇宙考古学」とも呼ばれています。
赤外線やマイクロ波が反射されるお話は、なんだか前回(第11話)のお話、すなわちストーンヘンジ周辺で行われた地中レーダーを使った遺跡調査の様子に似ています。光や電波の跳ね返りを利用して地表や地下の様子を広範囲にわたって調べることは、あちらこちらで行われているのです。
ここで、地中レーダーや人工衛星で使われている光や電波の特徴(周波数・波長)と、地中へ届く深さ(透過深度、探査深度と同程度)を表1にまとめました。使う道具(センサー)によって、得られる地下情報に違いがあるので、目的に応じて使い分けることが大事です。

表1. 人工衛星や地中レーダーが用いる光や電波の種類。波長が長くなるほど、
地下深くが見える。* 印:陸域観測技術衛星「だいち」の仕様に基づく値。地中への透過深度はおよその目安(地下構造や地表の凹凸により変化)。

そういえば(余談ですが)、サッカラの階段ピラミッドは2010年時点では修理の最中でしたが(図2)、実は相当ずさんな修理であったらしく、ピラミッドをむしろ破壊(!)していたそうです。エジプトの国内情勢が不安定で、ピラミッド修復に予算を回せなかったことが原因とのこと(注3)。このピラミッドは約4600年前に造られたそうですので、人類の貴重な遺産として守ってほしい(守らなければならない)です。
おっと、すっかりエジプトのお話になってしまいました。国内に話を戻しましょう。

◎日本の遺跡を覗いてみたら

日本の遺跡調査でも地中レーダーは活躍しています。一例として、奈良時代の郡役所と考えられている下高橋官衙遺跡(福岡県)での探査結果を紹介しましょう。
地中レーダーを使って地下を立体的に透視したところ、図5の上側のようなイメージを得ることができました。サイコロの六の目のように規則正しく並んでいる丸い模様が目立ちますが、同じような沢山の丸い穴が地中レーダーの調査地域のすぐ南側の発掘現場でも見つかりました(図5の下側)。これは当時の建物の柱の跡です。地中レーダーで見つかった丸い模様も、同様の建物の柱の跡でしょう。このようにして、遺跡の全てを掘り返さず、遺跡の全容を解明できる点が地下探査のメリットの一つと言えます。

図5. 上:下高橋官衙遺跡探査での地中レーダー探査の結果。深さ1~2m程度の地下の様子を3 次元的に表示。「地底の科学」(ベレ出版)より。原資料は西田(最新の物理探査適用事例集, 2008)より。下:同遺跡の発掘現場(大刀洗町ホームページより)。この発掘現場のすぐ北側(写真奥の畑地)で地中レーダー探査が行われた。

もう一例見てみましょう。今度は宮崎県の西都原古墳での地中レーダー探査の結果です。この古墳は前方後円墳で、古墳の高まり部分は地上に丘となって顔を出していましたが、古墳の周囲は土に埋もれていました。前方後円墳の周りには溝があるはずですが、肉眼で土を観察しても判別不能。一方、地中レーダーは溝を見事に検出しました。さらに古墳の中央部には、地下に埋葬されたと思われる何か(お棺?)が複数見つかりました。

図6. 西都原古墳群第100号墳での地中レーダー探査の結果。北郷(最新の物理探査適用事例集, 2008)より。地表から数m下のイメージ。

このように、人類の宝と言える遺跡の調査には、地下を掘らずに探査するテクノロジーが使われています。ちなみに、冒頭で紹介した階段ピラミッド型の都塚古墳では、地中レーダーは活用されていないようですが、そこから10kmほど北へ行った場所にある茅原大墓古墳では地中レーダー探査が実施されていて、お棺を埋めた穴らしきものが見つかっています。この古墳は荒らされた痕がないため、盗掘を受けずに、古代の様子がそのまま保存されている可能性があるそうです。もしかしたら、宝物も埋まっているかもしれませんね。
日本各地にはこのような古墳はたくさんあって、十分に調査がされていないものもあると思います。宝探しのご用命の際は、当方までご一報下さい(笑)。


注1:産経ニュースwest(2014年8月13日)
例がない巨大な「階段ピラミッド」の方墳…被葬者は蘇我稲目か 明日香村「都塚古墳」
http://www.sankei.com/west/news/140813/wst1408130054-n1.html
日本経済新聞電子版(2014年8月13日) 明日香村・都塚古墳は階段ピラミッド形 6世紀後半 被葬者、蘇我稲目説も http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG1302V_T10C14A8CR8000/


注2:日本経済新聞電子版(2011年5月27日) 地下に埋もれたピラミッド、衛星探査で「発見」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2700J_X20C11A5000000/


注3:Egypt Independentが報じています(2014年8月31日)
Activists: Unqualified company tasked with restoration of Egypt's oldest pyramid
http://www.egyptindependent.com/news/activists-unqualified-company-tasked-restoration-egypt-s-oldest-pyramid

つづく

【バックナンバー】
第1話 世界一深い穴でもまだ浅いのだ
第2話 「マグニチュード9.0」ってなに?
第3話 マグニチュードがだんだん増える?
第4話 地震計は命を救う
第5話 地震科学は失敗ばかり?
第6話 地中の埋蔵金の探し方(1)
第7話 想定外と想像内の狭間で(1)
第8話 想定外と想像内の狭間で(2)
第9話 想定外と想像内の狭間で(3)
第10話 想定外と想像内の狭間で(4)
第11話 地中の埋蔵金の探し方(2)